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記念日(3)
「え……」
正直言って、絢斗の話はあまり真剣には聞いていなかった。
だって、デートを誘うことばかり考えていたから。
何て言おうかって、そればかり。
でも、聞こえた。
絢斗の声は音として耳に入ってきていたけれど、最後のは言葉で聞こえた。
ちゃんと、言葉として、はっきりと。
『いちいち記念日祝う意味が分かんねぇし』
彼は、確かにこう言った。
聞き間違いなんかじゃない。
「絢斗!」
「あ?」
「ごめん、僕教室に戻る……! 次の英語の課題してなかった!」
突然立ち上がる僕に、驚く絢斗。
振り返ることなくもう一度だけごめんと言って、僕は教室を飛び出した。
だって、あんなこと聞いた後に、絢斗の顔を見るなんてことできない。
それに僕の顔も見せられない。
きっと今、ひどい顔してるもの。
絢斗の顔見たら、絶対に泣いちゃうよ。
人の価値観は違うから、僕が絢斗の考えに対して何も言うことはできないけれど。
それでも、僕にとって、絢斗との記念日は大切な日だから。
絢斗が僕を選んでくれて、一年も一緒にいてくれたんだ。
だからありがとうって感謝して、これからもよろしくねって言うつもりだったの。
「……っ、」
デートしようなんて、言わなくて良かった。
ウザいって、そう思われるのは嫌だ。
嫌われたくない。
でも、でもね。
改めて、こんなにも一緒に過ごしてきたんだとか、振り返ることはないのかな。
絢斗にとって、僕との時間はその程度のものってこと?
記念日………、やっぱりお祝いしたいよ。
大切な日でしょう?
そう思ってるのは、僕だけ……?
ねぇ、僕だけなの?
「……っ、」
絢斗にとって、僕との時間はそんなに大切じゃない?
僕だけって。
僕だけってさ。
そんなの、悲しいし、怖いよ。
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