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空気が不足してる(1)
跳ねるように歩くアイツの髪の毛が、ふわふわと揺れている。もともと癖っ毛だからってのもあるのだろう。にこにこ笑うアイツの気持ちに比例してか、揺れる髪も笑っているように見える。
寒いせいか、頬はほんのり赤くなっていて。
ぱっちりとした目はとても愛らしく、唇も食べてしまいたいくらにいぷっくりとして魅力的だ。
ぼんやりとそんなことを思いながら、アイツ……千尋を見ていると、視線を感じたのか、振り返って俺を見た。
千尋の顔が、一気に輝く。
そして嬉しそうに笑微笑むと、それから教材を手に取って、俺の席の方へと歩いて来た。
「ねぇねぇ昴くん、今日は数学を教えてください」
こてん、と首を傾げて俺を見る千尋に、胸がきゅっとなる。
遠くから見ていても、千尋が近くに来ても、とにかくコイツのことを考えたり、見たりする度に胸が痛くなる。
だからだろうか。
こうやって俺の元にくる千尋に、なぜだかイライラしてくる。
そして、千尋のせいでかき乱されるそんな自分にもイライラする。
「……、」
あーあ、空気が不足してるよ。
見たくないのにいつの間にか目で追ってるし、考えたくないのにコイツはこうやって傍にくるし。
千尋を目の前にしたら、俺だって突き放せない。
お前は俺を殺したいの?
分からない感情を持て余しながら、俺は千尋から教科書を取り上げた。
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