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空気が不足してる(2)
授業でやったページを開くと、千尋が分からない問題を指さした。
今日は割と簡単な問題ばかりだったし、先生の説明だってかなり分かりやすかった。
コイツは、一体それ以上の何を俺に聞くつもりなのか。
「千尋」
「ん?」
「これはベクトルの基本だろ。足して1になるなら直線上」
わざわざ自分の筆箱からシャーペンを取り出すのは面倒くさいから。
俺は千尋のを奪い、数字に丸をつけた。
「これ、分かるよな?」
「うん、」
「今日何回も解いたじゃん」
「うん……」
「それができれば分かるから、後は自分でやれるだろ」
「うん……」
千尋自身が俺に問題を教えてもらいに来てるのに、さっきから「うん」しか言わない。
本当に分かってる?
それとも分かってるのに聞きに来た?
……何がしたいんだ。
「あのね、昴くん……」
「あ?」
「……やっぱり何でもない」
あーぁ、本当にさぁ。
イライラが止まらない。
いつもそう。こうやって聞きに来る度に、もごもご言ってばりで、はっきりしてくれない。
俺のことかき乱すだけかき乱しておいて、お前はどうするつもり?
でもさ、それでもなぜか、そんなコイツを可愛いと思ってしまう。
俺自身も意味が分からない。
何なんだよ一体。
この気持ちは、何なの?
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