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空気が不足してる(4)
「昴くん」
すっぽりと腕の中に収まる千尋を見下ろせば、潤んだ瞳で俺を見つめている。
あぁ、もう。何でこんなに。
「千尋、」
「昴くん、」
「(可愛い、可愛すぎる)」
「んっ、」
我慢できなくなり、いきなり口を塞ぐと、隙間から可愛い声が漏れた。
顔も仕草も、声も、何もかもが可愛い。
どくどくとうるさい心臓。
相変わらず胸は苦しいし、この心音はきっと聞かれているだろう。
「……っ、」
分かってしまった、この感情の名前 。
千尋の上唇を俺ので挟み、それからちゅっと吸い上げる。
ふるふると睫毛が小さく揺れている。
(可愛い、)
(千尋、可愛い)
舌先で唇を舐め、噛みつくようにしてキスをすると、腰が抜けたのか千尋が座り込んだ。
「千尋、」
「昴くん……っ」
(胸が、苦しいよ。)
座り込む千尋の前に、俺も膝をついて座った。
「お前といると苦しい。見てるだけで苦しくなる。考えてると、呼吸もうまくできない」
「昴、くん……」
「空気が足りねぇの。全部お前のせいだよ」
「……っ、」
「責任取って」
傍にいても苦しくて、傍にいなくても苦しいのなら。
絶対に傍いて苦しむ方がいいに決まってる。
「昴くん……。僕も、昴くんといると、空気が足りない。……でも、いなくても足りないの。僕はどうしたらいい……?」
泣きそうになりながら、千尋が俺の服を掴む。
まさかの言葉に、思わず笑みがこぼれた。
なんだ、俺と同じじゃん。
「責任取ってやる」
「……っ」
「傍にいて責任を取るから。だからお前も俺の傍にいて責任取って」
「昴くん……」
「そしたらお互い様だろ?」
「すきだよ」
耳元でそう囁いて、もう一度、今度は優しく唇を塞いだ。
それから頬を優しく撫でると、千尋がふにゃりと笑ってくれた。
END
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