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幸せになろうよ(1)

誰もいない教室に、泣き叫ぶ声が響き渡る。 『やめて……! 嫌だ、嫌……!』 ハサミを振り回す俺の目の前に、アイツが座り込んでいて。 『ははっ、キモいよお前』 何もかも消えてなくなってしまえばいいんだと、どうすることもできない思いを、全てアイツにぶつけたんだ。 前髪を掴み、ハサミをおでこに当てる。 『うあ、ぁ、うわぁぁあッ』  大きく見開かれた目からは、大粒の涙がこぼれ落ち、床にいくつもの染みを作っていく。 『お前なんか死ねばいいんだ』   消えてしまえ。 俺の幸せを壊したお前なんか、消えてしまえばいいんだ。 『や、ぁ……、うぅ……』 涙だけじゃない。鼻水やらよだれやらで、服はぐちゃぐちゃに汚れてる。 汚い。汚いゴミは、とっとと消えろ。死んじゃえよ。俺の前からいなくなれ。 『さっさと死ねよ。消えろ』 目を閉じると鮮明に浮かぶあの光景。 まるでさっきの出来事かのように、脳裏にしっかり焼き付けられている。 アイツの叫び声も、俺の狂った笑い声も、耳に張り付いて離れてくれない。 ハサミで切ったアイツの前髪が涙と一緒に床に落ちていく瞬間が、何度も頭の中を駆けめぐる。 許されないことをした。 アイツを傷つけてしまった。 俺がまだ、小さかった頃のお話。

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