9 / 41
③How to convey love
腰に繋がれた専用の小さなキーボードで質問を入力すると、瞬時に答えを検索し、後頭部に取り付けられているスピーカーから音が発せられる。
それはひび割れた金属のような、くぐもった音。
――いや、声だった。
大きな大きな窓がある、白くて伽藍堂な俺の部屋。
窓から入る日の光が当たらない場所に、そいつはじっと椅子に腰かけていた。
白髪の混じった頭髪は一本の綻びもなく几帳面に撫でつけられ、纏っている黒の執事服はどこを見ても折り目正しい。
両手は軽く拳を握り、膝の上に行儀よく置かれている。
腰の辺りから伸びたコードの先に、変色した古めかしいキーボードが繋がれていた。
ただ正面を見つめる瞳にはきっと何も映っていない。
仕様も旧式なら、見た目も旧式だ。
『え? 音声認識できないの?』
『ああ、友人が新商品に買い替えるそうで、要らなくなったものをもらってきたんだ。相当な年代物だよ。だから労働なんかは全くできない。もう動かないんだ』
何ヶ月かぶりに顔を見せた父親は恩着せがましく、俺に言った。
『でもおまえ、欲しがってただろう? 検索ロボット』
俺の声はこいつには認識できないらしい。
俺は試しにポチポチとキーボードで質問事項を入力してみる。
途端にスピーカーから、雑音の混じった低く落ち着いた男性の声が聞こえてきた。
「なんだ、その答え」
俺は検索ロボットの出した結果に眉根を寄せて呆れた声を出す。
「今そんな説を唱える学者なんていないぜ? 去年スウェーデンの研究所で新たに発見された事実に覆されたんだ。じゃあこれは?」
また、無機質な声が出る。
俺は溜息を吐きながら、ソファにどっかりと腰を下ろした。
「答えも旧式だなんて、ちっとも役に立たないじゃないか。俺は新しい知識を教えてくれるものが欲しかったんだ。……こんなもの、要らない」
俺の悪態にも関わらず、そいつは前を向いたまま澄ました顔をしている。
ああ、言葉は伝わらないのか。
俺は腹いせに『役立たず』とキーボードで打ち込んだ。
「役に立たないこと、またはそのような人やもの。…………申し訳ありません」
「えっ」
ともだちにシェアしよう!