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説明の最後に付け加えられた言葉に声を上げ、そいつの顔を凝視した。
けれどもそいつは微動だにせず、前を見たままだった。
俺は驚きに目をパチパチと瞬かせながら立ち上がり、もう一度、言葉を入力する。
『馬鹿』
瞬時にスピーカーから音が聞こえた。
「知能の働きが鈍いこと。道理・常識から外れていること。程度が並はずれているさま。役に立たないさま。…………そのような言葉は、慎むように」
「ぷっ、なんだよ、それ。俺に説教か?」
検索ロボットって質問以外のことにも答えるのか?
俺はうろうろとそいつの周りを回って、あちこちを覗き込んでみる。
もちろん、説明書などはない。
初めて扱うロボットだから、俺にはこれが普通かどうかはわからなかった。
じっと瞳を覗き込む。
理知的な面差しにガラスのような黒い球。
そこに俺は映っていない。
他の奴が持ってる検索ロボットはどうなんだろう?
「…………」
俺に友達はいなかった。
そもそも学校に行ってない。
行く必要なんかないから。
勉強ならこの部屋で、一人でだってできる。
俺はロボットから離れると、窓辺に立った。
遠くから子供たちのはしゃぐ声が風に乗ってやってくる。
俺のことなんか誰も……わかってくれないんだから。
俺は両手で勢いよくカーテンを閉めて、部屋に入る日の光を遮った。
***
今日も部屋は白く、四角く、差し込む朝日は眩い。
ベッドにソファ、食事をするための小さなテーブル。
すべてが白色に統一されていた。
目覚めた俺はベッドから這い出し、検索ロボットのキーボードに「おはよう」と入力した。
「朝、人に会ったときの挨拶。…………おはようございます」
「ふっ」
俺はそいつの答えに笑いが込み上げる。
「なあなあ、おまえ、前はどんな奴のとこに居たんだ? そいつともこんな風に喋ってたのか?」
俺はパジャマを脱ぎながら問いかける。
しかし、そいつは前を見たまま何の声も発しない。
「あ、そうか、入力しなくちゃ……」
俺の指はキーボードに向かった。
「…ま、いいか」
俺はくるりと背を向け、朝食の並んだテーブルに腰かけた。
こいつが俺以外の誰かと会話している様子を想像するのが、なぜかいやだった。
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