どうして野菜を食べなきゃいけないの？ 僕はお肉が好きなのに、どうして魚も食べなきゃいけないの？ 自分が好きなものばかりを食べられたらいいのに。 毎食、毎食、好きなものばかりを食べるほうが、僕は絶対に、幸せなのに……！ 「……おい、水上（みなかみ）、聞いてるか？」 川北（かわきた）先生の呼びかける声にふっと我に返った。 「三十二ページの三行目だ。おまえはどう訳したんだ？」 「す、すみませんっ」 僕は慌てて英語の教科書を捲る。 すると、隣まで歩いてきた川北先生が僅かに腰を屈めて、僕の耳元に顔を寄せた。 「俺の顔ばかり見てても答えは書いてないぞ？」 ひっそりと囁かれた低い声に、僕は耳まで真っ赤になった。 どうして、数学も古典も歴史もやらなきゃいけないの？ すべての時間割が英語だったらいいのに。 毎時間、毎時間、川北先生が教えてくれたら、僕は絶対に…… ＊＊＊「好き嫌いはいけません」終わり