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⑤‐2

冷えた風が頬を切りつけた。  校舎の屋上にある鉄柵から身を乗り出し、灰色の街並みを見下ろす。 「もう来てたのか」  僕は振り返ることもせず、背後の声の主を知る。 「授業が早めに終わったんですよ」  小さな営みひとつひとつから目を離さずに答えると、給水タンクの傍にあなたが腰を下ろす音が聞こえた。 「なあ、やっぱ俺たち、もうダメかもしれねぇ」  弱々しい声が僕の背中に届く。 「また彼女と喧嘩でもしたんですか? 先輩」  苦笑混じりに問い、振り返った。寒々しいコンクリートの床が、視界の端まで続いている。  あなたは眉根を寄せ、「ああ」と肩を竦めた。 ――どうしてあなたは、いつもそんなふうに、哀しそうに笑うの? 「すぐに仲直りできますよ」  僕はあなたの縋るような瞳をまっすぐに見つめ返すと、救いの手を差し伸べるかのごとく、そう言ってあげる。 ――こうして、僕なんかとこんなに冷え切った場所に居るのは、慰めて欲しいからなのでしょう? 「先輩みたいな優しい人を、嫌いになるはずなんかないもの」  僕の言葉に、あなたはくすぐったそうに微笑んで、俯いた。 あなたはどこまでも愚鈍で、浅はかだ。 あの女はあなたのことなんか微塵も愛していない。 だって、僕は試したもの。 僕の見え透いた甘言に、あの女は、簡単に身を委ねた。 あなたの愛を平気で踏み躙った。 けれど、優しいあなたはそれに気づけない。 「愚痴でもなんでも、いつでも僕が聞いてあげますから」 あなたを本当に愛しているのは、僕、なのに。 愛して愛して、愛しすぎて、僕はもう、壊れる寸前、なのに。 あなたには僕の絶叫は聞こえない。 だって、僕が叫んでいることにさえ、気づかないのだもの。 僕なら、あなたを誰より、何より、愛してあげるのに。 あなたはもう、哀しい笑みを浮かべる必要はないのに。 それなのに、――あなたが僕を選んでくれることは、決してない。 愚かなあなたに見せてあげたい。 この胸を、腹を引き裂き、はらわたを引きずり出して、あなたの目の前に晒したい。 ――あなたを愛する、僕のすべてを。 あなたは広がる血溜まりの中に跪き、酷く驚いた顔をして、初めて僕の愛を知るのだろう。 そして、僕の愛をその体に受け入れるんだ。 はじめは、柔らかな腹の肉を。 次に、あなたを愛することのためだけに動いている内臓を。 そして、あなたに触れたがっている指先を、一本一本、丁寧に。 最後に、あなたへの想いをドクドクと刻み続ける心臓にキスをして。 口元を鮮血で汚して、僕の肉を貪り食うあなたを、僕は痛みと恍惚の入り混じった瞳で、見上げるんだ。 あなたの血肉となって、あなたとともに生きる悦びで全身を打ち震わせながら、僕は最期の時を迎える。 これ以上の幸せが、僕にあるだろうか――。

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