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プロローグ
フライトを終え、荷物を受け取ってから到着ロビーに足を踏み入れると、カメラのフラッシュが目を射た。
しかしサングラスのおかげで眩しくはない。
カシャカシャカシャ、けたたましいシャッター音とともに、たくさんのマイクが向けられる。
『ケントさん、主演決定おめでとうございます』
『ケントさん、今回の来日は役作りのためとお伺いしましたが、どういった役どころでしょうか』
『ケントさん、日本は初めてとのことですが行ってみたい場所はありますか?』
ケントさん、ケントさん、ケントさん、うんざりするほど名を呼ばれ、ケント・フジタはため息をかみ殺した。
つん、と背中をマネージャーに突かれる。
うるせぇなわかってるよ。
ケントは内心で答えて、一度足を止めた。
ケントを囲んでいるリポーターが期待に満ちた眼差しを送ってくる。
ケントは視線が充分集まっていることを確かめて、するり、とサングラスを引き抜いた。
そして、にっこりと極上の笑みを浮かべて、
「ニホンノミナサン、ヨロシク」
というひと言を、わざと片言で発音して。
パチン、とカメラの向こうにウインクを投げると、今度は立ち止まることなく長い足を動かして、空港を後にしたのだった。
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