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1 可愛いコイツとウザいアイツ
「亮介ー!昨日のノート貸してくれない?」
学校の廊下で元気な声をして手を振ってくる彼に、 田辺亮介 は思わずニヤけてしまう。
天然パーマのフワフワした髪型。亮介よりも少しばかり背が低く可愛らしい彼、 里山慎吾 は笑顔で亮介の元へ駆け寄った。
「ほら、ノート」
「助かる!亮介がいてくれて本当に良かった〜!」
ノートを受け取りニコニコする慎吾を見て、亮介はますますニヤつく。
亮介はこのリスの様に可愛らしい慎吾に片思いしている。
亮介と慎吾が通っている仁徳学園は中高一貫校の男子校。全寮制だ。
高等部三年になる二人は中等部からの友人。亮介が自分の恋心に気づいたのは高等部に入ってから。とにかく慎吾の笑顔を見ると動悸が激しくなる。顔が赤らむ。眩しくてたまらない。
これはもう恋だろうと当時の亮介は腹を括った。
男子校ということもあり、チラホラそういうカップルもいるので今更驚くこともなく受け止めた。
ただ、友人であるが故になかなか告白ができない。それでも慎吾の笑顔が見れるならば今のままでも良いかとすら、思えてくる。
「あ、次僕ら外だからまた後でね!」
亮介と慎吾はクラスが違うため、お別れだ。
タタっと走っていく背中を見つめながら、亮介はホンワカする気持ちを抑えられない。
「まぁーた、慎吾見てる」
背後から少し高い声で話しかけられて、振り向くと 和輝 がいた。
「そんなに慎吾ばかり見なくてもいいのにさぁ」
和輝にそうからかわれてウンザリした様な顔を見せる亮介。
「もういい加減、俺にのりかえてよね」
亮介の態度にめげずに和輝はニッコリ笑う。
「頑固なんだから…でもそういうとこ、好きだけど」
市瀬和輝 も亮介と中等部からの腐れ縁だ。
背が高く細身の彼は中性的な顔立ちをしている。校内の男子はもちろん、街を歩くと女子が振り返る程だ。
そんな和輝は何故か亮介に懐いている。というより昨年から何かと亮介に好き好き発言をしてくるのだ。
対してモテない亮介に何故そう言ってくるのか不思議だが、慎吾大好きな亮介は和輝のラブコールに反応してこなかった。和輝も亮介の片思いを知っている。
(こんな俺のどこがいいんだか)
モテる和輝に好かれるほどカッコよくもないし、可愛くも無い自分を何故和輝がこんなにいってくるのか亮介は不思議だった。
「次、吉野の授業だよ。早く行かないとうるさいぜ」
皮肉なことに亮介と和輝は同じクラス。移動を促しながらも和輝は亮介の尻をサワサワと撫でた。
「そうやってお前は何でナチュラルに尻を触るんだぁぁ!」
何かと触れてくる和輝を払い除ける亮介。このやりとりがほぼ毎日だ。
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