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朝、目が覚めると家に母はいなかった。
眠たい目を擦りながら居間へ向かうと、片付いた机の上にひとつ、置かれた手紙に気がつく。
昨日眠りにつくときにはなかった気がする、母からだろうか、と紙を手にとって文字を読んでいく。
見慣れた達筆なその文字は正に、母のものだった。
《巡流へ
お見送りできなくてごめんね。新しい学校でもたくさんお友達を作って、たくさん勉強をして下さい。応援してるよ!
夏にはちゃんと帰ってきてね。母さんより》
ああ、そういえば。と思い出す。
俺が転入する今日この日に限って夜勤が入ってしまったと、そういえばぼやいていたっけ。
俺がこれから転校する先の学校は全寮制の男子校だ。
これからしばらくは母さんの顔も見れなくなるのかと思うと少し物悲しくも思うけれど、そんな事を言っている場合ではない。せっかく叔父さんがくれたチャンスなのだから不意にするわけにはいかないのだ。
母からの手紙を机の上にそっと置く。
難しかった編入試験もなんとか解いた、先月届いた合格通知。俺はきっとその時の感動を忘れないだろう。
鏡に向かい合って、今日から新しい生活だと拳を握った。
もうしばらくしたら学園からの迎えの車が来てしまう、さっさと準備をしなくちゃ。
生まれつき色素が抜けたような、金色の髪の毛をひとつまみ摘んで鏡の向こう、青い瞳と見つめ合う。
好きでこんなド派手な容姿に生まれたわけじゃない。
好きで居心地のよかったはずの高校を転校したわけじゃない。
……それでも俺は、この容姿と向き合って生きていかなければいけないんだ。
誰もいないリビングで息を吸い込んで、よし。ともう一度気持ちを立て直すように小さく呟いて意気込んだ。
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