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「んで、お前は行かないのかよ、加賀谷」
「ああ。生徒会と違って現場で動く風紀は忙しいんでな。一つの案件にトップ三人が掛かり切りでは見れねえんだよ」
清原と植木を行かせ一人その場に残った加賀谷に尋ねると、馬鹿にするよう鼻で笑われる。
本当、つくづく癇に障る様な言い方しか出来ない奴らだな。随分偉そうな態度で答えて、何やら携帯をいじり始める加賀谷に顔を顰める。
別に加賀谷のこれなんて今に始まったことではないが、これが風紀のトップであり、そして加賀谷を筆頭として清原植木と言った超絶厄介者たちと対峙しなければならない俺の身にもなってほしいもんだ。
風紀の奴らと一緒に仕事をしたり行動を共にする度に俺の体力も、精神力さえも奪われていく。正直こんな奴らと一緒に仕事なんてしたくないし出来ることなら関わり合いになりたくないのだけれど、この学園の運営において二強の片割れである風紀無しではやっていけない。逆もまた然りだ。
風紀と生徒会は相いれない、なんてよく言ったものだ。こんな曲者揃いの風紀とどう仲良くしていけというのか、考えるだけで頭が痛くなる。
そんな俺の様子を携帯から顔を上げて一瞥する加賀谷がそういえば、と話を続ける。
「明日の入学式の事だが、今日になってトラブルが重なったようじゃねえか。そんな調子で月末の歓迎会はうまくいくのか?」
「そんな事言われたって、トラブルってのはいくら俺たちが注意していようがいまいが関係なしに起こる時は起こるもんだろ。それをいかに迅速に対処するかが大切なんじゃないのか」
まじで文句だけは一丁前だな。自然と眉間にシワが寄っていく。
どんな話が加賀谷の元に行ってるか知らんが、特に対応してもいない風紀に文句を言われる筋合いはないと思っている。そもそも今回のトラブルは防ぎようのないものばかりだ。
生徒会ばかりを責める様なその物言いに顔を顰めれば加賀谷はその非常に悪い目つきでじっとこちらを見つめてくる。流石は風紀のごろつきをまとめる風紀委員長様といったところか。その目つきの悪さと迫力だけは馬鹿にできない。
加賀谷を前にした生徒達は皆一様にその威圧感に耐えられず逃げだしたいとさえ思うのだろうが、俺は違う。
何度も言うけれど、慣れてしまえば加賀谷の目つきの悪さなど大したものではないし、痛いほどの威圧感も本人からすれば特別威圧しているわけではなくただ普通にしているだけなのだ。それを知れば加賀谷が無意識のうちに発し他人に与える威圧感など、ただの勘違いや気のせいと同じだ。本人にその気がないのだから怖がる必要など一つもない。
加賀谷の睨みに特別怯むこともなくただこちらの意見を返せば、加賀谷は面白くなさそうに嘆息して、ちげえ、と否定をした。
「浅葱。お前は見通しが甘いって言ってんだよ。この調子じゃ入学式はどうにかなっても歓迎会当日では確実にトラブルが起きるだろ、そんでいくつものトラブルが重なれば対処もきっと遅れる。もっと委員会議を増やして緻密な計画を練るべきだ。」
「また会議か?先週やったばかりだろ」
「少ねえ。問題が起きたら生徒会をまず通す、進行さえも生徒会中心ってのはわかってるがイレギュラーが起こるたび、毎回お前らに聞いて行動仰ぐのか?お前ら全員合わせても4…違ったな、5人だろ。なんでもかんでもって、生徒会に集中しすぎだ、分散できるところはするべきだし、ある程度の決まりも決めておくべきだ」
「あーわかったわかった。今日中には生徒会内で話し合う。決まったら日時を学内メールで各委員のトップに流しとくから、それでいいだろ?」
この会議オタクめ。内心そうは思うが確かに加賀谷の言うことにも一理ある。
方針の見直しだったりもっと細かいところまでの計画を話し合うのに、会議を重ねておいて悪いことなどないだろう。トラブルはつきものだけれど避けれるのであれば避けたいし、対処法があるのであればそれに越したことはないのだ。
何よりただでさえ通常時でも生徒会に負担がかかりすぎているというのにトラブルの対処に追われるとなればどうにかこの体制を変えたいと言うが本音だったりもする。
反論も文句もなく加賀谷の言うことに頷けば、加賀谷は満足そうに「ああ。頼んだ」と言ってそのまま背を向けて廊下を歩いて行ってしまった。
その後姿を眺めながら、これで話しはおしまいかと、いきなり終了した会話に呆ける。
まあ、確かに立ち話をするほど俺も加賀谷も暇ではないのだから用件がすんだら解散するべきではあるのだけど。
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