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真っ直ぐ歩調を緩めることなく廊下を進み、遠ざかっていく加賀谷の後ろ姿を眺めながら小さく嘆息する。あんな物騒な顔しておいてマイペースって厄介な奴だな。
廊下を曲がってしまい見えなくなった加賀谷の姿に、彼の下につく風紀委員を哀れに思う。俺だったらあんなわけわかんない奴の下につくなんてまっぴらごめんだ。
俺は心の底からそんな風に思うけれど、しかし現実は植木のように加賀谷を慕う者はたくさんいる。慕われる何かを持っているのだろうし実力もあるからこそ、実際に風紀委員のトップを張れるんだろう。
そんなことを考えながらも意識を現実に戻して、この後はどうしようかと考える。
階段の手すりに手をかけ階下を覗く。
とりあえず常盤と合流するべきか。追いかけるような形になるので、また風紀のあの二人と顔を合わせることになるのは確かだろう。それを思うと非常に陰鬱な気分になるけれどそうも言ってられまい、今回の件は早々に風紀に引き継いで、俺たちは俺たちの仕事をしなければならないのだから。
というのも、明日の入学式が無事に終えられたとしても、その後にはもう一つ春のビッグイベントが待ち受けてるのだ。
毎年入学式を終えて大体二週間後、新入生を歓迎する気持ちを込めて催しが開かれる。先程加賀谷から念を押された歓迎会とは、この会のことである。
主に部活動や委員会など学内紹介を目的とした会なのだがその様相は年々豪華になっているという噂だし実際その通りである。
外部から呼んだアーティストや芸人たちの芸の披露から始まり、委員会や部活動の各活動ごとに紹介の挨拶がされる。
そしてその後の自由行動時間では各活動ごとに一つ教室が割り振られそこで出し物が用意されて、新入生や活動に所属していない者達はそれを見るために自由に学内を回る事が出来るのだ。
毎年予算が少しずつ足されていき、春の文化祭と呼ぶ者も少なくない。この学園において大きなイベントの一つである歓迎会を前に、学内は少しピリつくのである。
もちろん生徒会にも多量の仕事が回ってくるのでピリつくどころの騒ぎではなく、歓迎会一週間前となると最早殺伐とするのだが。
先に生徒会室に戻っててもいいけれど途中で連絡が重なって忙しくなったら合流も難しくなるかもしれない。仕方ない、ての空いてる今のうちに常盤を迎えにいくかと階段を下り始めたところで、ふとポケット内の携帯が震える。
何だろう。そう思って携帯を確認すれば、ディスプレイは着信を知らせている。バイブレーションは止まらない。
表示されている名前に、一度眉を顰めて、通話ボタンを押した。
『あっもしも……』
「おはよう岩村。今日は転入生が来る予定で忙しくなるからって伝えておいたはずだが、バックれるとはさぞかし大事な用だったんだろうなぁ?」
『うわ、怒ってる……。会長激怒じゃん…」
こえー…、と電話口の向こうで声を沈めて言う岩村につい舌を打つ。怖い、じゃない。誰のせいでこうなってると思ってんだ。
ただでさえ生徒会の役員は人数が少ないって言うのに、会計である岩村が私用で捕まらないなんて絶望で目の前が真っ暗になる事案だ。しかもそれは今回が初めてではないのだからたちが悪い。
階段を下りながらそういえば何の用だろうかとふと疑問に思う。この時間帯に連絡してくるってことは授業には出ていないんだろうし、何か仕事の件についてだろうか。階段の踊り場で光が差し込む窓を見上げた。カラスが一羽、木に止まっている。
「お前、今どこにいるんだ?」
『屋上だよー、やっぱり太陽の下で性活動を行うのは気持ちがいいね』
校庭走る生徒たち眺めながらのセックスってさいこうだよ。とゲスい発言をかます岩村に顔を顰めた。
昔はこんな奴じゃなかった気がするけれど。人間行く道を間違えるとこうなってしまうのかと、呆れるように深くため息を吐き出した。
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