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「相変わらず最低だな、そんな事より仕事をしろ仕事を」 相変わらずの岩村の様子に呆れながら階段の手すりにもたれ掛かる。 耳に当てた携帯は少し熱を持っていて肌に触れたその部分が少し熱く感じる。けれど4月らしい少し肌寒い廊下のせいで冷えた指先にむしろその熱は暖かくさえ感じた。 『やだなぁ、親衛隊と距離を縮めるのも立派な仕事のひとつでしょー?それとも副会長みたいに親衛隊の活動禁止命令出して解散させた方がいいって言うの?』 「お前らは極端なんだよ、なんで丁度良くができねぇのか」 『うわぁーー会長にだけは言われたくなかったな?!よくそんな事が自信満々に言えたね!!』 「放置放ったらかしの会長よりもまだ副会長の方が愛があるよ」続けて言う岩村の表情はこちらからではわからないけれど、その声音には明らかに呆れを含んでいる。 確かに、俺が丁度良く出来てるとはまさか思えないので返す言葉もないけれど、それを岩村に突っ込まれるのもまた癪だと顔をしかめる。 「うるせえ。それで?わざわざ電話してきたってことは用があるんだろ」 『あ、うん。そう、なんか設営委員から会計の事で連絡来たんだけど何コレ?こんなん許可したっけ?』 なんか知ってる?と電話口の向こうから尋ねる岩村の声に首を傾げる。 設営委員、そういえばひとつ思い当たる節があったな。 朝の入学式のトラブル対処でその場を離れる際に現場を任せたのは確か設営委員だったはず。 会計の岩村に連絡が行ったということは、既に業者も決まって今回のトラブル対処に掛かる予算もある程度出てるということだろう。 そういえば会計であるはずの岩村にはまだこの件を伝えていなかったな。 今更感はあるけれど、とりあえずその旨を伝えるべく口を開く。ああその件についてだが……。静かに相槌を打っていた岩村は突然何が起きたのか、俺のセリフを遮るようにあっ、と声を上げた。 『ちょっと待って。キャッチ入った。ごめん、これから戻るからさ詳しくは生徒会室で直接話してい?』 「キャッチ?…ああ、わかった」 俺の返答に対してごめんねーと気の抜けた謝罪を最後に残し、岩村との通話は切られて不通音だけが残った。 岩村の奴、屋上にいるって言ってたな。屋上から生徒会室は近いし、もたもたして遅くなったらまた煩くなりそうだ。 常盤拾って生徒会室に一緒に戻るのは厳しそうだな、なんて考えながら通話の切れた携帯の画面をタッチする。 履歴の一番上には岩村の名前。そのすぐ下には常盤の名前があってそれを選択する。すぐに切り替わる呼び出し画面に、今日はいつにも増して忙しく感じると嘆息した。 「……あ、もしもし。常盤か?」 『会長』 どうしましたか?尋ねてくる常盤の声を聞きながらその場で踵を返して、今下りてきたばかりの階段をまた一段一段登っていく。 「お前んとこ行くつもりだったが野暮用が入った。そちらにはいけないが風紀と合流は出来たか?」 『合流した後引き継ぎも完了しました。ただ被害者の方がメンタル的に来てまして。…風紀に対して不信感があるみたいで、代わりに俺が保健室まで付き添うことになりました』 「そうか、わかった。入学式準備のトラブルについては俺が引き受けるから常盤はそちらを引き続き頼んだ」 『わかりました、お願いします』 落ち着きましたらまた連絡します。常盤はそう残して通話を切った。 とりあえずこれで必要な連絡は済んだし次は生徒会室で岩村の話を聞く番か。 途切れた電話をポケットにねじ込んで、岩村との約束を思い浮かべる。今日は朝からずっと忙しいな。早く席についてコーヒーでも飲みたい気分だ。目の回るような忙しさに皺の寄った眉間を摘む。デフォルトが怖い顔なんて加賀谷だけで十分だ、間違っても会長怖いなんて思われてはならない。 よし、早くやる事はやってしまおう。小さく息を吸い込んで、静まり返った階段をゆっくりと登っていくのであった。

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