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「?おかしいな…」 誰もいない。 静かな室内に足を踏み入れ辺りを見渡すけれど人影は一つもなく室内は静寂に包まれている。北条は転入生の案内の途中だろうし常盤は保健室にいるのだろうが、問題は岩村だ。 あいつ、確か屋上から電話をかけてきていた。屋上から生徒会室なんて5分もかからないはずなのに一体どこで道草を食っているのか。 そこまで考えて、まあ、別にそんなに急くこともないかと思いなおす。 朝から立て続けに仕事が舞い込んできたせいでずっと忙しなかった。今ようやく一息つけるのに、そんな急か急かする必要もないだろうに。 コーヒーメーカーのスイッチを入れて自分のマグカップを用意する。準備が整うまで数分かかるので、その間散らかった自身の机の上を軽く片付けようと山になった書類を手にして、そこで自分の机の上に置かれた見覚えのない箱を見つけた。 「何……魅惑の御煎餅…せんべい?」 藍色の渋い柄のした箱の中央、明朝体でデカデカと書かれた商品名を読み上げて、怪しすぎるそれに顔を顰めた。 親衛隊からの差し入れだろうか。俺の机の上にあるということは俺宛だろうけれど、基本的に俺は差し入れは受け取らないようにしている。 となると、もしかしたら常盤辺りが断りきれなくて受け取ってしまったとかだろう。 封の開いたその箱を恐る恐るあけてみる。小包装で、見た目は至って普通の煎餅がそこには並んでいた。 「5.6……明らかに減ってるな」 その箱の大きさに比べて内容量は異様に少ない。そして極め付けはゴミ箱に捨てられた空袋。どう見たって空袋の方が多く見えるのだから、誰かが食べたことは明白だろう。 しかしここまで減るスピードが速いなんて、よっぽど美味しかったのだろう。普段は気にも留めないはずのお菓子に、どうしてか今回ばかりは気になって仕方なかった。 まあ。俺宛だし、全て食べられてしまう前に一個くらい頂いておくとするか。幸い"毒味"も済んでるみたいだし。 丁度コーヒーも出来たようだし。コーヒーメーカーから聞こえてくるアラーム音に誘われるようにそちらへ向かい、予め用意しておいたマグに珈琲を注ぐ。 室内に漂う珈琲の良い香りに、上機嫌に自身の机に腰をかけて、その魅惑の御煎餅を手に取って、袋を破いた。 煎餅に歯を立てる。なんとも上品な醤油の香りが広がり、確かに普通の煎餅とは少し違うのかもしれないと思うけれど、なによりも信じられないくらい固い。噛む力を込めるが中々その煎餅は砕けない。 所謂堅焼き煎餅なるものなのだろうか。ぬれ煎餅も堅焼きもどっちも嫌いではないけれど、ここまで固いとなるとどうしても割ってやりたくなるという気持ちが出てくる。 「……」 顔を顰めて思いっきり力を込める。みし、とヒビの入る感覚に一瞬歯がやられたのかとヒヤリとするけれどそうではなかったようだ。 煎餅に入ったヒビが一瞬にして広がり、漸く舌の上に一口大に割れた煎餅が落ちてきた。感じる達成感、そしてそれを一瞬でかき消すように舌の上に溢れるのは、どろりとした液状の…液状の? 「っ?!!う、」 全く、誰が煎餅の中に液体が仕込まれているなどと想像できるだろう。 しかも鼻を抜ける強い醤油味には、醤油らしかぬ"甘味"を携えていたのだった。

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