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「教室まで送り届けて来ましたよ、校内の案内も特に滞り無く終えました。寮の案内は寮長へ引き継ぎましたのでこの後学校が終わりましたら引き続き案内をしていただけるかと」
「ん、ああ。ご苦労だったな。今日は午前でおしまいだし、あいつらもゆっくり見てまわれるだろう。どうだった?」
珈琲を飲みながら席につく。全く、一息つくつもりが余計に疲れてしまった。汗をかいた後特有の首の後ろのベタつきに顔を顰める。忌々しい煎餅の箱は見てるだけで吐き気がしてくるので隣の北条の席に避けておいた。
「どう?うんまあ特に問題もなく、少し騒がしかったけれど」
「そうじゃなくて、転入生達だよ。晴と……響、巡流といったけ。お前の目から見て、この学園でやってけそうか?」
自分の分の珈琲を入れて、そのままソファの方へ移動する北条に目を向ける。
北条はうーん、と少し考える素振りを見せると珈琲を机の上において、目線を合わせるようにこちらへ顔を向けた。
「元々晴くんのいた東葉学園もうちと似たような環境だったようなので彼は問題なく、すぐ馴染めると思うよ」
晴。今では考えられないけれど昔は俺の後ろにくっついて離れなかった。懐かしいなと思うけれど、あいつももう子供じゃないんだ。あれだけの身長と不屈の心があれば心配する事もないだろう。
ただ、心配なのはもう一人。響巡流が気がかりで。
その先を言いづらそうに言い淀む北条に、それで。と続きを促す。ため息をつく北条は、そのままソファに腰を落とした。
「響くんがね、少し…なんというか」
「あのもじゃもじゃ頭だな。言いたいことはわかるが」
「…ごめん、僕でもよくわかんないんだけど、すごく、不思議な子なんだ」
「……ん?」
それは確かに見るからに不思議だけど。どうやら俺の意図しているものと北条の考えは違うらしい。何やら難しい顔をしてそれ以上は何も口にはせず考え込む北条の姿に訝しく思う。
一体何だって言うんだ。そういえば四人が合流した時から北条の様子は可笑しかったけれど、やはり合流する前、二人の間に何かあったのだろうか。
先程は聞きそびれてしまったけれど、今なら何があったのか聞けば話してくれるだろうか。北条の横顔を眺めながら的当な言葉を探していると、俺がかける言葉を見つけるより早く北条が口を開いた。
「そういえば、常盤くんとは合流できたの?」
「ん、ああ。あの後色々あったんだよ」
説明するのも面倒な事が、色々な。
この場に常盤が居ないことを不思議に思った北条は俺の返答に、ふうん。と気のない返事をした。ふうんってなんだよ、自分から聞いておいて。
どこか心ここに在らずといった北条の様子に、やっぱりなんかあったのかと思わずには居られないけれど突如勢いよく開いた生徒会室の扉に、それ以上なにかを聞くようなタイミングは失われてしまったのだった。
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