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[第3章]リコール

「なあ、これどこに置く?」 「あ。それはベッドのそばにお願い出来るかな」 「了解」  結局、あのあと俺は三日間だけ入院した。病名は前回と同じ軽い過労とストレスで、やっぱり一日休んだぐらいではよくならなかったらしい。  三日後に退院した俺は生徒会から追いやられ、それに伴い生徒会役員専用の一人部屋からも追い出されることになった。  会長には書記の鷹司が繰り上がりで着任し、空いた役職の書記には人気投票の結果、この4月に転入して来たばかりの転校生が着いた。その転校生は役員全員の裏の性格を見事に見抜いたらしい凄いやつで、それでも、そのままでいいと励ましたとか励まさないとか。  その一言で役員達からの信頼も得て、今ではすっかり皆と打ち解けているらしい。その転校生はS組の転校生で、鷹司達とはすぐに仲良くなったものの会長の俺の存在は知らなかったようで、どうやら彼が仕事しない会長はいらないとリコールを提唱したらしかった。  いつかはリコールされると思っていたし、今はリコールされてよかったとさえ思う。仕事半ばで投げ出すのだけは嫌だったけど、どの道いつかはこうなる運命だったろうから。  会長から一般生徒に戻った俺は、一般生徒と同じ二人部屋に戻った。ルームメイトはクラスメイトでもある隣の席の槙村で、槙村は二年生になってからずっと一人だったらしく、俺との同居を喜んでくれている。 「はあ、落ち着く……」  荷物と言っても家具やテレビなんかは備え付けだったから、引っ越し自体は半日とかからなかった。  槙村の部屋……、もとい。俺達の部屋のリビングは洋室じゃなく和室で、ソファーの代わりに何故か小さなちゃぶ台が置いてある。部屋の隅には座布団が何枚か山積みされていて、それを見るとほっこりした。  もともと俺は庶民の中では御曹司と呼ばれる立場、つまりは社長の息子ってだけで、エリート揃いの他のメンバーとはそもそも住む世界が違う。  リビングの広さは今までの半分ほどのはずだが、テレビや飾り棚ぐらいの据え置き家具しかないからか、その広さの割には広く見えた。冬には、ちゃぶ台の代わりにこたつを置くらしい。 「羽柴、腹減らない?」 「え、あ。もうそんな時間か」 「そば()でてあるから一緒に食おうぜ」 「えっ、もう食事の用意してくれたんだ」 「まあな。引っ越しと言えば引っ越しそばじゃん」  槙村はキッチンに向かいながらそう言って、そばの丼を二つお盆に乗せて戻って来た。 「あとで隣のやつらにもおすそ分けしなきゃな」 「え、いいんじゃない。別に。俺はしばらく部屋に篭ってるつもりだし……」 「ばーか。本来の引っ越しそばは自分で食うんじゃなくて、近所に挨拶がてら配るもんなんだぞ」  人見知りの俺とは違い、槙村は意外にもちゃんとしているようで感心してしまった。 「なあ、羽柴」 「ん?」 「もしかしてお前、新歓が終わるまで部屋に篭ってるつもりとか?」 「そ。今更俺がのこのこ出て行ってもいい気はしないだろうし、せっかくだから新歓が終わって5月になるまで、部屋でゆっくりしとこうと思って」  リコールされてホッとしてるのも本当のことだけど、しばらくは生徒会のメンバーの顔は見たくなかった。それはあっちも同じだろうし、何しろ俺は会計の日向と同じクラスだし。 「やっぱ気まずい?」 「うん。それもあるけど……」 「ん?」  結果的に自分達が俺を追いやったって、引け目を感じて欲しくないからな。 「まあ、とにかくしばらくは部屋に篭って、今まで出来なかった好きなことを思いっ切りするよ」  新歓はいよいよ来週末で、再来週には5月になるし。俺は二年生で、本来なら生徒会役員じゃないと直接的にはあまり関係のない催しだしさ。  この時の俺は新歓が終わるまでは学校も休み、全てをリセットさせて一般生徒に戻るつもりでいた。

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