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 取り敢えず、俺が今、思い切りやりたいこと。  テディベア作りや料理は勿論だけど、和室リビングのリノベーション、つまりは模様替えもやりたいことの一つだ。リビングにあるちゃぶ台や座布団はレトロでいい味を出してるんだけど、いかんせん座布団カバーは昔ながらのものでとにかく地味で味気ない。  出来ればちゃぶ台や和箪笥、飾り棚なんかのインテリアもペンキで色を塗り替えたいところなんだけど、さすがに槙村に聞いてからじゃないとあれだよな。ただし、座布団カバーは簡単に縫えるし替えも効くしで、取り敢えず俺は座布団カバー作りから始めることにした。  実は前の部屋のソファーに備え付けてあったクッションカバーも手縫いしたし、備え付けのソファーもカバーで覆って使っていた。  会長の部屋のソファーは黒い革張りの高級感が溢れるものだったんだけど、俺には不釣り合いと言うか、黒を基調としたお洒落なリビングはとにかく落ち着かなくて。俺は、前の部屋を自分好みに模様替えして使っていた。  そういやキッチンやリビングもあのままにして来たけど、鷹司にはもとの黒の革張りのソファーの方が似合う。まあ、俺があっちに残して来たものは心配しないでも全部処分するだろうし、俺が気にすることでもないか。  入院してる間に通販で布地や裁縫グッズを爆買いして補充したし、当分は引き篭っていても退屈しないで済むだろう。槙村が登校してる間に共同スペースの掃除をするのもいいし、二人分の夕食を用意出来るのもまた嬉しかったりして。  去年の俺は二人部屋で、ルームメイトと食事をするのも楽しかったし、長い夜を話し明かすこもあった。今年になって出来なかった好きなことをやろうとそう考えるだけで、単純だけど今まで嫌だったことも全部忘れてしまいそうだ。  つくづく俺ってインドア派だよなあ。食材の調達もデリバリーで済ますし、学校に登校する以外は殆ど部屋から出ないし。  まあ、俺が人見知りなのもあるんだろうが、一人部屋になって初めて、俺は一人が淋しいことを身を持って知ったのだった。 「出来た!」  マイミシンでカタカタすること、ほんの数分で可愛い座布団カバーの出来上がりだ。布地や端切れは何十種類もストックしてあるから、一つ一つ全部違う座布団カバーにしてみた。  兄が三人いる末っ子の俺に激甘な両親は、毎月、生活費の他にもそれなりの金額のお小遣も入金してくれている。二年生になってからはそれを使う暇もなかったから、三、四月分のお小遣が丸々残っていた。まずは、これを新生活を始めるに当たっての基盤に宛てることにしようかな。  生徒会のことが気にならないでもないが、鷹司ならきっと上手く纏めてくれるはずだ。大まかな仕事の流れは日誌に書き留めて来たし、パソコンを開けばわかるようになっている。  他のメンバーは俺の言うことは聞いてくれなかったけど、鷹司のことなら無条件で聞くだろう。そう考えると、俺から見ても鷹司は会長に適任だ。 「……あー。そう言や、日向のスピーチ原稿は途中までしか書けなかったか」  唯一、そのことだけが心残りだ。まあ、これも俺が書くまでもないんだろうけどさ。  取り敢えずは新歓の企画に没頭出来るように、月末が締め切りの仕事は全部終わらせた。後は鷹司に丸投げしても(ばち)は当たらないはずだ。  これからの生徒会のことは橘先輩にもお願いしたし、思い残すことはないって言うかさ。俺は、俺がやるべきことはやったと思ってるし、後は俺が口を挟まなくても鷹司ならきっと大丈夫。  その日は一日で、七枚の座布団カバーとリビングに合いそうな和柄のカーテンを縫った。いつもより長くキッチンに立ち、二人分の夕食も準備して。 「ただいま。羽柴、起きてるか」 「お帰りー」  ただいまとお帰りの挨拶を誰かと出来るのも嬉しかった。夜、寝る時はおやすみを言って、朝はおはようの挨拶をして。ちょっと作りすぎかなとも思った夕食だったが、なんとか槙村と俺の腹の中に綺麗に消えてくれた。  この日を境に、料理の担当が俺になったのは言うまでもない。

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