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やっぱ制服で来たのはまずかったかな。けど、普段着で来るよりは遥かにマシな気がするんだけど。
「……なんで制服なんだよ」
「ごめんごめん。着て行く服がなかなか決まんなくてさ。小一時間悩んだ末に制服にした」
「――っっ」
そしたら槙村は一瞬固まって、直ぐに顔を赤くした。
「悪い。なんかデート前の女の子みたいでキモいよな。俺もそう思って思わず笑っちゃったんだけどさ」
悪い悪いと頭を掻いてたら、服が決まらなかった言い訳をしていないことに気がついた。
けど、まあ、別にいいか。一張羅がテディベアに変わった話なんかしても、槙村は面白くもなんともないだろう。
槙村は一度部屋に戻って着替えて来たようで、普段、寮では見たことがない服を着ていた。それはモデルが着ているようなお洒落なもので、いやがおうでも期待感が増す。
「まずはどこ行く?」
「まずは散髪かな。髪型をある程度決めて、それから勝負服が見たい」
「ぶっ、なんだよ。勝負服って」
羽柴って何気に面白いよなと笑われたけど、別に面白いことを言ったつもりはないんだけどな。俺だってお洒落がしたいし、出来ることなら可愛い女の子と恋だってしたいんだ。
中等部の頃の俺は、それなりに友達もいる普通の男子中学生だった。それが、高等部に上がって生徒会入りしたら友達と遊ぶ暇がなくなり、高校生になった俺は今まで友達が出来なかったけど。
特に生徒会長になってからは誰かと会話する時間さえなくなって、たまにクラスメートと先生からの伝言で二言三言、言葉を交わすぐらいだった。その時は状況が状況だけに眉間にシワが寄っていただろうし、心に余裕もなくて、無愛想で生意気なやつに見えていたと思う。
だけど今はこうやって、友達と喋ることが出来るし、一緒に出掛けることも出来る。
「羽柴って普段、髪切るのどうしてたんだ?」
「あー、ぎりぎりまで我慢して、欝陶しくなったら寮内の美容室でカットだけして貰ってた。フランス語だか、イタリア語だかが店名のなんちゃらって店。値段が値段だけに、そう頻繁には行けないから伸び放題でさ」
うちの学生寮の一画にはちょっとしたショッピングモールがあって、その中にはセレブ御用達の美容室や飲食店の支店があり、自炊しない生徒は世界各国の高級料理が味わえるファミレスもどきの店を利用している。
その中でも本屋とコンビニだけは一般的な値段設定だけど、コンビニにはマスクメロンや生ハム、高級キャビアの缶詰が置いてあったりとやはりセレブ仕様だ。
美容室には美容サロンまであって、そこではエステが受けられるらしかった(男子校なのに)。ヘアサロンと美容サロンは分かれていて、俺はヘアサロンだけしか利用したことがないから噂に聞いた話だけど。
美容サロンは主に王子様や姫キャラの生徒と美意識が高い生徒が利用していて、美肌の他に睫毛や眉毛のエステまであるらしく、そちらは可愛い系のチワワと呼ばれている生徒御用達だ。因みに槙村の父親は大手銀行の頭取で、槙村も俺と同じぐらいにそこそこのエリートだけど、親のツケで買い物したりセレブな店を利用するようなタイプじゃない。
「槙村はいつもどこで切って貰ってんの?」
「ああ、うん。実は俺の彼女が美容師でさ」
「えっ、うそ。槙村、彼女いたの?!」
一応なと笑う槙村の行きつけだと言うことで、槙村の彼女がいる美容室に行くことにした。
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