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「羽柴君の髪ってカラーリングしなくても自然な茶髪だし、羽柴君のような少しくせ毛で柔らかい髪って意外にセットしやすいのよ」  自分でセットをする方法を教えてくれる彩夏さんを尻目に、俺の目は点になってしまっている。 「お前、誰だ?」  同じく目が点の槙村にそう言われたように、鏡の中には少し中性的な見た目をした見知らぬ男子高校生がいた。草食系というよりもユニセックスに近い、自分で言うのもなんだけど、鏡の中の俺は槙村にも負けない美形のような気がするんだが。 「……これが俺?」 「そ。羽柴君って実はすごくイケメンだったのねえ。イケメンと言うか、美少年?」  眼鏡は掛けない方がいいだとか、眼鏡にするなら眼鏡サロンを紹介するから新調すればいいよと、彩夏さんから幾つかアドバイスを受けた。誰かに似ていると思ったらうちの母さんで、うちの母さんは百パーセント日本人だけど、何故か日本人離れした顔をしていたりする。 「……もしかして、俺、モテちゃったりする?」 「おう。今も羽柴が会長だったら親衛隊が出来たかもな」 「そっちかよ!」  槙村に言われ、思わず突っ込んでしまった。そう言えば俺には彼女がいないばかりか、周りには男しかいないんだった。今ならナンパは百パーセント成功するような気もするが、ナンパをする度胸があるはずもなく。 「今の羽柴、チワワにモテそうだなあ」 「マジでやめてくれ」 「?」  キョトンとしている彩夏さんを尻目に、槙村は可笑しそうにケタケタ笑っている。うちの学校は初等部から一貫の男子校だけあって、恋愛対象が同性になりがちなのだ。  幸いにも今までの俺にはその手の話は一切なかったが、今は嫌な予感しかしない。 「まあ、それなりにその髪型に合う眼鏡を買って掛けとけば?」 「……だな」  モテたいとは思っていたし、髪をセットして貰おうと思ったのは今更だけど、青春を、高校生活を謳歌したかったからだ。だからちょっと複雑ではあるが、俺は髪を切ったことには満足している。  セットの方は、整髪料をちょっとだけ撫で付けるだけでいいように髪をカットしてくれた彩夏さんに感謝だな。取りあえず学校に行くのはゴールデンウイーク明けにして、それまでは様子を見つつ、時々は出会いを求めて街に出てみるのもいいかも知れない。手芸店と本屋以外に、飲食店かコンビニぐらいしか行く所はなさそうだけど。  まずは眼科に行き、初めてコンタクトレンズを購入した。それから彩夏さんに紹介して貰った眼鏡サロンに行き、眼鏡ソムリエだという店長さんに今の髪型に合うお洒落な眼鏡も選んで貰った。 「羽柴。お前、学校には変装してった方がいいかもな」 「……やっぱそう思う?」 「逆レイプされたら洒落にならんし。俺もカードキー時代にカードを盗まれて、チワワに部屋で待ち伏せされて襲われたことがあってさ。マジ怖いから」  そう言われてぞっとした。まあ、俺なんかにストーカーするやつはいなさそうだけど。  最後にこの髪型に合う勝負服を買うために、俺達は槙村の行きつけのショップに向かった。

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