34 / 103
12 要side (書記)
生徒会室に篭ってかれこれ二時間が経つが、まだ具体的な案は纏 まらない。休日の生徒会室にいるのは俺だけで、いつもは何かと騒がしいこの場所がまるで神聖な場所のように思えた。
いや、もともと生徒会室とは神聖な場所のはずだ。選ばれた人間が選んでくれた人達のために尽力し、学校をよくして行くための。
確かに俺は総選挙で全校生徒の中から選ばれたが、その総選挙は所詮は人気投票でしかなかった。しかも、自分を推してくれていた前会長からの要請を蹴り、去年の俺は遊びほうけていたのだ。
「……くそっ」
それにしても、どれもこれも似たりよったりの案で新鮮味がない。会議で候補にあがったのは、去年と同じ生徒会役員と鬼ごっこというありふれたものだった。
「だって、憧れの生徒会役員に校内を案内して貰えるんだよ? 一般生徒が嬉しくないはずがないじゃん!」
そう言ってその案を強く推していたのは転校生の佐倉で、羽柴のリコールを唱え、リコール当日の総選挙で新しく書記に就任したやつだ。俺らと同じS組の生徒で人気も家柄も申し分ないが、佐倉が口にしたその一言がずっと心の中に引っ掛かっている。
そもそも新入生歓迎会とは新入生のために生徒会が主催するイベントで、新入生が楽しめないと本末転倒だ。確かにその案だと生徒会役員を捕まえた本人は楽しめるかも知れないが、得をするのはその新入生だけのような気がしてならない。
それより何より、佐倉が口にした『一般生徒と憧れの生徒会役員』という一言には不快とまではいかないが、違和感を感じて。
自分も生徒会役員でありながらそう言い切った佐倉の図々しさはこの際置いておいておくにしても、その上から目線で差別的とも取れる発言は生徒会役員としていかがなものか。
一方、羽柴があげていた案件は全ての生徒が楽しめるようなものばかりだった。例えば校内を案内して貰いたい上級生に手紙を書いて、手紙を貰った上級生は貰った手紙の中から案内したいと思う新入生に返事の手紙を書くというもので。
「えー、手紙なんかめんどくさいじゃん。メールやLINEでよくない?」
異論を唱えたのも佐倉で、佐倉に心酔し切っている他のメンバーもそれにならい全ての羽柴の案件はボツになってしまったのだ。
だがしかし、例えばさっきの案件を例にとると、佐倉が言うようにメールやLINEを送るとなると事前に相手にアドレスやアカウントを教える必要がある。これが手紙となると個人情報は守れるし、書かれた文章や字の綺麗さなんかが決め手となる利点もある。
こうなると相手の見た目や家柄にこだわらず、手紙から読み取れる人柄や性格が判断基準となるのだ。手紙は上級生の下駄箱や机の中にでも入れておけばいいし、返事は手紙に添えられていた新入生の教室に出向いて直後手渡してもいいし、口答で返事するのもそれはそれでありかも知れない。
生徒会役員には当然物凄い数の手紙が集まるだろうが、専用の投函箱でも設置しておけばいい。生徒会役員に手紙を渡す新入生に限り、もう一人、手紙を渡せる特別ルールを用意してもいい。
メールアドレスやLINEはお互いに気に入ったら改めて交換すればいいし、こうすることで余計なトラブルは回避出来るだろう。何より鬼ごっこは二百人を越える新入生が一斉に生徒会役員を探すため、毎年何かしらのトラブルや怪我人が続出していたのだ。
この案は新歓当日に開催するイベントではないが、このイベントの開催を発表するだけで、誰もが気軽に好きな相手に手紙を渡せるだろう。返事をするかしないかは個人に任せるとして、決して強制はしないことにして。
このイベントが開催されたことを公表しておけば、人気者の上級生が目立たない新入生を案内していても妙な噂は立たないだろう。
きっと羽柴はそこまで考えているはずだが、手紙というアナログなツールが佐倉には地味に映ってしまったのかも知れない。
ともだちにシェアしよう!