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02 庵side (風紀)

 スマホに手を伸ばし、何度も見直した画面を開く。 「(いおり)、どんな感じ?」  羽柴からのメールを読み返していたら、背後から前会長の兄貴の声がした。兄貴は俺の頭に顎を置き、上からスマホ画面を覗き込んで来る。 「ん? ああ、兄貴か。なんとか上手く行ったみたいだな」 「そっか。よかった」  前会長の兄貴も風紀委員会室と生徒会室に自由に出入り出来るようになっていて、兄貴はこうして風紀委員会にも定期的に顔を出してくれる。羽柴のことを気にかけていたのは当然だけど俺以上で、俺のその一言で心からホッとしている様子が伝わって来た。 「それにしても、羽柴君には驚かされたな。前々から整った顔をしてるなとは思ってたけど」  そう言って笑う兄貴に、俺は苦笑で返した。 「羽柴君に眼鏡を掛けるように薦めたのは庵と元ルームメイトの槙村君だって? もしかして素顔も見た?」 「ああ。見るか?」  そう言ってスマホに保存した画像を見せると、 「これは……、想像以上にやばいな」 「だろ?」  眉間にシワを寄せてうーんと唸る。 「すぐに親衛隊を立ち上げないと……」 「大丈夫。会長に復帰後、直ぐに申請があった。因みに申請者は羽柴の去年のルームメイトで、彼が親衛隊長になるだろうな」  そう言うと、兄貴は見るからにホッと胸を撫で下ろした。  学生寮に引きこもっている間に、ルームメイトの槙村と美容室に行って来た羽柴。羽柴は忙しさから髪を切る暇もなかったようで、髪を切った羽柴を見て、ある意味衝撃が走った。 「お前……、本当に羽柴か?」 「ああ。つかそれ、槙村と同じリアクションだな」  そう言って笑う羽柴には自覚というものがないようで、周りから注目されまくっているのに全く動じず飄々としている。  どうやら度数がきつい眼鏡は羽柴の大きな目を必要以上に小さく見せていたようで、俺は羽柴のあまりの美形ぶりに思わず目を見張った。  長い前髪に隠されていた顔はかなりのイケメンで、しかし、羽柴にはその自覚が全くない。今、このタイミングで抱きたい&抱かれたいランキングの投票をするとしたら、羽柴は間違いなく上位に食い込むだろう。  恐らくは人見知りから来るであろうぶっきらぼうな態度が羽柴をクールに見せ、その顔は母親似なのか、どちらかと言うと美人という言葉がよく似合う綺麗な顔をしている。身長が175センチと決して低くない羽柴は、抱かれたいと抱きたい、どちらのランキングにも上位にランクインすることが容易に予想出来た。  そうなると、一部の生徒が羽柴を放っては置かない。そんな一部の生徒の暴走を未然に防ぐために、ランキングの上位者にはもれなく親衛隊と呼ばれるファンクラブにあたるものが設立されている。  親衛隊に入ると対象者と交流が出来る見返りに、抜け駆けをすることは許されない。おまけに親衛隊が出来ると親衛隊員以外は安易に近付けなくなるから、対象者の身の安全は保障されるというわけだ。  その親衛隊を取り締まるのは風紀委員の役目で、親衛隊を新設する場合は風紀委員会に申請する決まりになっている。有り難いことに羽柴の親衛隊は復帰直後に申請されて、委員長の俺は直ぐさまそれを受理したのだった。 「まあ、なんにせよ、これで一件落着かな」  兄貴はそう言って笑ったが、俺は正直なところ、少なからず複雑な気持ちを抱えていた。  なんとか羽柴に眼鏡を掛けさせることに成功したが、羽柴の素顔はマジでやばい。眼鏡を掛けることで生徒会長らしさが増したのは事実だが、本当のところは少しでも羽柴の素顔を隠しておきたかった。  羽柴はその身軽さから普段からコンタクトにすることを望んでいたが、俺と槙村が全力で止めた。羽柴には申し訳ないが、羽柴の素顔を知る人間は最低限に抑えておきたい。  それがどんな意味を成すのか、その時の俺は分からずにいた。

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