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椿野が淹れてくれた紅茶に口をつけてパソコンに向かう。
「あ、おいし」
「そう? よかった」
椿野が淹れてくれた紅茶は思ったよりも美味しくて、思わず素直な感想が口をついて出た。会長になってから眠気覚ましのためにマグカップでブラック珈琲をがぶ飲みしていた俺だが、実は珈琲はそんなに好きじゃなかったりする。
「あ……」
「ん?」
「あ、いや。なんでもない」
「?」
紅茶の淹れ方を椿野に教えて貰いたかったけど、取り敢えずは仕事を片付けようと無言でパソコンに向かった。今まではシンと静まり返っていたこの騒がしい空間が、思いの外心地がいいことに初めて気付く。
それにしても、再スタートを切れて本当に良かった。それぞれがそれぞれの仕事を責任を持って熟しているのはまさに生徒会の理想の姿で、リコール前は想像したこともなかった。
日向も佐倉に助けられながらちゃんと仕事してるし、庶務の日下部と不知火も真面目にそれぞれの机に向かっている。
日下部と不知火とは殆ど話したこともなかったんだけど、二人とも話してみれば意外に気さくなやつだった。どうやら俺にはエリート組に対して偏見があったようで、改めてリコール前のことを反省したり。
転校生の佐倉とは初めて話したんだけど、想像以上に面白いやつだった。その大きな声は地声だとしても、仲良くしたいという思いが暴走して先走ってしまうらしく、自分が悪いとわかると直ぐに謝りつつも酷く落ち込んだりとなんか憎めないんだよな。
そんなやつは俺の周りには今までいなかったから、佐倉の存在はいい意味で柴咲 学園に馴染んだ俺達にいい刺激を与えてくれた。うちの学校に通う生徒はある程度プライドが高くて意地っ張りなやつばかりだから、佐倉のように自分に素直なやつはあまりいないのだ。
一部の生徒の噂に生徒会役員は転校生に骨抜きにされてると言うのがあるんだけど、あながち単なる噂じゃなさそうだ。俺にはプレッシャーなんて殆んどないからあれだけど、他のメンバーからすれば佐倉の一言は神の声にも聞こえただろう。
佐倉を悪く言ってる子達もやっかみ半分ってとこで、嫉妬から意地悪してるだけなんだと思う。
それだけ俺達の学校、柴咲学園は平和な学校で、それは学生寮のない初等部から変わらない。不良と呼ばれる生徒もたかだか授業をサボったり、見た目が派手なだけで、不良と言うよりただの問題児レベルだし。
もう少し仕事が落ち着いたら、風紀委員長の橘ともゆっくり話をしてみよう。他のメンバー達ともゆっくり話したいし、そうしたらもっと上手く行くかも知れない。
今はまだ探り合いの状態だけど、いつかは皆と冗談を言い合ったり、日向と佐倉のようにふざけ合ったりして。
そんな風に俺の会長復帰一日目は、慌ただしく終わったのだった。
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