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04
寮に戻り、
「はあーっ、疲れたーっ」
再び舞い戻った広すぎる寝室のベッドに後ろ向きにダイブして、天井を眺める。
「シャンデリア……」
他の役員の部屋はどうだか知らないけど、会長の部屋の寝室には小さいけどちょっとしたシャンデリアがあり、俺はあまりの眩しさに、適度にスプリングが効いたベッドの柔らかい布団に顔を埋 めた。
この部屋を使っていた一ヶ月あまりの期間はろくに眠れなかったけど、この最高の寝心地もシャンデリアも何故だか懐かしくて笑ってしまう。
「……」
部屋に帰っても誰もいない。会長への復帰と引き換えに、そんなちょっぴり寂しい毎日が戻って来た。
前会長の肇先輩のことを考えると、会長に戻れてよかったとは思う。だがしかし、ルームメイトの槙村がいないことは思いの外寂しくて、今はまだ夏にもなってはいないが、槙村とこたつに入って鍋をつつきたくなった。
生徒会役員の部屋は役職ごとに決まっていて、昨日まではこの部屋は鷹司が使っていた。どうやら鷹司は俺が改装したままにしていたようで、俺が殆ど使っていなかったリビングのソファーは俺の手作りのカバーで覆われたままだった。
意外だったのがキッチンを使った形跡があったことで、冷蔵庫に残したままだった食材は使った分だけ買い足してあったし、家電や調理器具は俺が使いやすいように配置したままになっている。
冷蔵庫にマグネットで貼り付けた『いらない物は処分してくれ』と書いたメモだけはなくなっていたが、それ以外は俺がいた時のままになっていた。
作り置きしていた冷凍のものはそのままで、タッパーに詰めておいた日保ちがするものもそのままだ。寝室に何体か置いたままのテディベアもそのままだったし、鷹司は俺がいた痕跡を残したまま、この一週間をこの部屋で過ごしていたらしい。
『立つ鳥跡を濁さず』の諺 通り、鷹司のいた形跡は全く見られなかった。生徒会室の俺のデスクもそのままだったし、ただ一つだけ、珈琲で汚してしまったお気に入りのテディベアだけがなくなっている。
「うそっ、まだこんな時間?」
時計を見るとまだ夜の7時前で、一人で仕事をしていた時には、こんなに早く帰って来たことは倒れた日以外には一日もなかった。
会長が使うこの部屋には寝室の他に、勉強や仕事が出来るちょっとした書斎がある。いつも詰めていたこの書斎の机も俺が使っていた時のままで、この部屋に一週間と短い間だったが鷹司がいたことが不思議に思えた。
確かに調味料やシャンプー、洗剤なんかの日用品は少し減っているような気もする。会長の部屋の風呂にはシャンプーやボディーソープが出るポンプが備え付けてあって、その中身や洗濯用と食器洗い用の洗剤が少しずつ減っている気がする。
意外なのは出汁の素や醤油も使った形跡があったことで、意外にもグリルやオーブンも使った跡があった。
「あの鷹司がねえ……」
まあ、俺様でなんにもしないように見える鷹司だけど、それらの痕跡を見付けるとこの部屋で鷹司が過ごした一週間が見えるような気がした。
ベッドから立ち上がり、久しぶりにリビングに向かう。このリビングは無駄に広すぎるわ、ゆっくりするする暇もないわで、一人で仕事をしていた時は殆ど足を踏み入れることもなかった。
けど、このリビングからベランダに続く窓から見える景色は最高なんだよな。なんならベランダから見る景色がまた最高で、至れり尽くせりの利便性の他に、唯一俺が気に入っていたところだ。
この部屋は最上階でもあるし、学生寮と学校はちょっとした高台の上にあるしで、ベランダに出ると麓の街が一望出来る。ベランダに出るとちょっとしたバーベキューセットやテーブルセットもあるんだけど、
「あ……」
そこに鷹司の忘れ物らしい、高そうな天体望遠鏡を見つけた。
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