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翌日のゴールデンウイーク初日から、生徒会執行部メンバーの元へ続々と手紙が届くようになった。中には特別棟の最上階直通のエレベーターや生徒会室の前で待ち伏せして直接手渡す猛者もいるが、新歓イベントの企画の一つとの大義名分があるから親衛隊員も迂闊に手が出せないようだ。
言ってみれば親衛隊持ちの生徒も公認のこのイベントは、一見地味に見えて大いに盛り上がりを見せている。中にはわざわざ外のポストから手紙を投函する者もいて、その手紙は確実に受取人の手元に届いた。
「あ」
「お、ついに羽柴にも来たか?」
ゴールデンウイークの最初の平日の夜。俺の元へも郵送で何通か届き、その中の二、三通が熱烈なラブレターだった。
「ぶっ、始業式で初めて見た時から好きでしたって? よく言うよ」
泊まりがけで俺の部屋に遊びに来ている槙村が、郵送で届いた中の一通を読み上げた。確かに始業式からだという一節はなんとも嘘臭く、俺も思わず苦笑してしまう。
「槙村の方が俺より多く貰ってるだろ」
「まあな。けど、俺の方が気軽に出せるからだろ。生徒会役員に比べれば、学校を案内して貰える競争率も低いだろうし。俺は一般生徒だから俺の部屋や教室にも来やすいし、生徒会役員様と違って気安く渡せるしさ」
確かに言われてみればその通りだが、もしかして俺に手渡したくてもなかなか手渡せない子もいたりするんだろうか。
「……。いやいや、ないない」
一瞬そうも考えた俺だったが、全く注目されなかった期間が長かったからか素直にそうとは思えなかった。
俺は鷹司や椿野みたいに人望もないし。佐倉のように美形なわけでもないし、日下部のように可愛くもない。
「あ」
そんな中、一通の手紙が目に留まった。他の手紙とは明らかに違い、その手紙は淡いペールトーンの無地の封筒で、消印は柴咲学園がある場所、差出人の住所は学生寮の一般棟の一室になっている。
多分、学校の前にある郵便局のポストから投函されたものだろう。
「お。すげえ綺麗な字じゃん」
「ああ、うん。封筒も落ち着いていてお洒落だし、好感が持てる」
名前は岡崎晴、1年A組と書かれていた。
「A組か。俺達みたいなエレベーター組の生徒か、外部生の優等生かのどちらかだな」
A組はS組に次いでのエリートと、全額免除の奨学金を貰っている成績優秀な外部生で成形されている。岡崎という苗字は旧財閥にもあるが、一般的にも割と多い名前だ。
「ちゃんとしてんじゃん。ラブレターって感じじゃないし」
「うん」
その手紙はこの企画を考えた時のお手本のような手紙で、ただ、差出人の生徒との馴れ初め話に首を傾げた。
「入試の時に助けて貰ってから……、か。羽柴、なんかしたの?」
「いや。全く覚えがない」
入試とは多分、高等部の入学試験のことで、ということは、この手紙の差出人、岡崎君は外部生だということになる。去年の入試は生徒会執行部のメンバーも雑務に駆り出され、会長補佐の俺も受験生の案内や受付でバタバタしていた。
「親切にしてくださり、とても助かりました、か。いい感じだな。慕ってくれてるし、羽柴に憧れてはいるようだけど恋愛、恋愛でガツガツはしてないし」
「え?」
「多分、これは一応、ラブレターだろうな。文面ではわかりづらいけど。文面から感謝の気持ちは勿論、好感を持たれてることがひしひしと伝わって来る」
一瞬、恋愛が絡むのかと腰が引けそうにもなったが、岡崎君との馴れ初め話が気になった。もともと貰った手紙全てに答えるつもりだったが、文句なしに彼の手紙が最優先だ。
「やっぱ、同じように返事を書いてポストに投函するべきかな?」
「そうだな。いいなあ、羽柴。俺のは下心がありそうなのばっかだよ」
それでも下級生に慕われるのは悪くないよなと照れ笑う槙村をよそに、俺はその手紙を書斎の引き出しの奥に大事に仕舞った。
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