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[第6章]親衛隊と新メンバー
生まれて初めて告白された。直接好きだと言われたわけじゃなく、手紙で、だが。
もっと言えば岡崎君からラブレターを貰うまでにも何通か貰ってはいたが、その少しミーハーな内容を考えれば、それらは告白されたうちに数えなくてもいいだろう。ともかく岡崎君から貰ったラブレター。
「んー……」
その手紙に、俺はまだ返事を書けないでいる。
勿論、まだ岡崎君のことを全然知らないし、告白されたと言っても『付き合ってください』とは書いてなくて、ただ俺のことを恋愛対象として好きだと書かれている。その後に自分の一方通行なのは知っているけど、どうしても告白したかったこと、告白してすっきりしたからこのことは忘れてくださいと追記されていた。
その丁寧な文面や綺麗な文字から岡崎君の真摯な気持ちが読み取れて、どう返事をしていいのかわからないのが本当のところだ。
そもそも俺には恋愛経験がなく、今まで恋愛感情を持って誰かを好きになったことがない。その原因は思春期になっても周りは男ばかりの環境だからだと思うが、と言うことは、俺の恋愛対象は普通に女の子だということになるんだろう。だからか、余計に返事がしづらくて。
男同士の恋愛に偏見はない。そもそも男だけしかいないのに、抱きたいランキングや抱かれたいランキングがあるような少し特殊な環境にいるからな。
そんな中で誰にも恋愛感情が沸かないのは、自分が異性愛者だからなのか、それともただ単にまだ恋に落ちたことがないからなのかは今の俺にはわからなかった。
「……羽柴君?」
「……ん? ああ、悪い」
今週末は出題範囲が前学年の教科書全ての進級テストがあり、休み時間に槙村達と一緒に試験勉強をしている。リコール前は授業を受ける以外に勉強する暇がなかった俺だったが、ここに来てようやく自習の時間が取れたのだ。
「大丈夫ですか? 珍しくぼーっとしてるけど……」
「あ、いや。うん」
一緒に勉強している風紀副委員長の御子柴 に心配されて我に返る。
「羽柴、なんかあった?」
日向が珍しく休み時間に教科書を広げていることもあり、俺達はクラスメートから注目を浴びている。
「あー、まあな。日向、告られたことある?」
「ん? 当たり前じゃん。こう見えて俺っちってばモテモテよー」
「いや。そう言うんじゃなくて真剣なやつ」
「真剣なやつ?」
目を真ん丸くしてうーんと考える日向は、ある種、博愛主義なところがある。おまけに誰もが認めるイケメンで、アイドル感覚で日向のことを好きだと言うミーハーなやつも少なくはないだろう。
「真剣な告白がどんなのかは知んないけど、俺っちは全員にちゃんと真面目に返事するよー」
「そ、か」
そんな意外な日向からの返事に、思わず言葉に詰まってしまった。普段からチャラ男でふざけて見える日向だが、そう言えば日向は端からはおバカに見える行動もいつも至って真面目で真剣だ。
「なんだよ羽柴。もしかして誰かに告られたとか?」
「うそっ?!」
「えっ、本当ですか?!」
「あー、うん。まあ……」
どちらが告白したのかは知らないが、御子柴にはうちの学校に両思いの恋人がいる。いろいろ思うところがないわけではないが、貰った手紙を三人に見せ、貰った手紙の一件を打ち明けた。
「んー、これは……」
五月に入ってからこちら、急に暖かくなった。いつもはブレザー代わりにベージュのカーディガンを羽織っていた日向は、今日から同系色のニットベストに変えたようだ。
槙村と御子柴と俺は、いつものようにブレザーをきちんと着込んでいる。三人は俺が貰ったラブレターに目を通し、
「これは正真正銘のラブレターですね」
御子柴が真剣な顔でそう言った。
「この新歓うんぬんの手紙はともかく、こちらのラブレターは本物ですね。しかも、自分の一方的な片思いだと自覚していて、告白だけに留めていて」
「うん。俺っちなら絶対付き合ってくださいって書いちゃうなあ。自分のこと知られてなくとも」
「何と言うか健気だな。健気だけど……。羽柴、お前まさか可哀相だから付き合おうとか思ってないよな?」
「あ、うん。それは」
正直、この手紙を貰っても岡崎君に恋愛感情は沸かなかった。好かれているのは嬉しいし、慕ってくれるのは光栄にも思う。
だがしかし、知り合ったのは岡崎君からの一通の手紙で、直接会ったのも昨日が初めてなんだから仕方がない。いや、去年の外部入試の時に会ったみたいだけど、申し訳ないけど岡崎君のことは覚えてなかったし。
「羽柴は初恋まだなんだよね?」
「ああ、うん。まあ……」
「なら同性愛者かノンケかもまだわからないですよね」
「その、気を悪くしたら悪いんだけど、御子柴が同性愛者だって気付いたのはいつだ?」
「僕ですか? いえ。実は僕、自分が同性愛者かどうかはまだよく分かってなくて」
不躾な俺の質問に、御子柴は困ったように笑って見せた。
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