66 / 103

02

「僕は、もともとはノンケで、まさか同性を好きになるなんて思ってなかったですね。一応は初等部から柴咲学園ですけど、性に関しては疎かったし。それが高等部に進学した早々、あるトラブルに巻き込まれちゃったんです」 「トラブル?」 「まあ、平たく言えば集団暴行ってやつです。性的な。未遂だったけど」 「!!」 「その時に助けてくれたのが今の僕の恋人の(さかき)先輩で、また被害に遭わないようにって風紀委員会に入れて貰って現在に至るって感じなんですけどね」  うちの学校は一部の生徒や親衛隊員が暴走してしまうことがたまにあるが、まさか御子柴が被害者だとは思わなかった。気まずい空気を払拭するように、御子柴は頭を掻きながら困ったように笑っている。 「最初は頼りになる先輩で、恩人で、尊敬してる人で。感謝してもし切れなくて、先輩から好きだって告白された時、最初はどうしたらいいかわからなくて。僕は男で先輩も男だし。だけど、先輩から忘れてくれって言われて距離を置かれた時に、酷くショックを受けてることに気付いたんです。それで、告白を受け入れて付き合ってみて、僕も先輩が好きなことに気が付いて」  御子柴は当然だけど前風紀委員長の榊先輩以外に男は好きになったことがないらしく、今も自分は同性愛者だとは思っていないそうだ。  たまたま好きになったのが同性の榊先輩だっただけで、恋人候補と考えたらあくまでも相手は女の子で、彼女が欲しいとは思いますが彼氏が欲しいとは思いませんねと笑った。 「俺っちはうちの学校に男しかいないからかなー。ゲイかノンケか、バイセクシャルかは、まだ恋愛の意味で誰かを好きになったことがないからわかんない。女の子とエッチしたこともないし。初等部からうちの学校だから男しかいないのが当たり前で、だから俺は可愛い健気な男の子が好きで、男同士でエッチもできてるんだと思う。でもまだ誰とも付き合ったことはないし……。エッチと恋愛は別ものって気がするからどうなんだろうね」  日向は少し困った顔でそう言ったが、目の前に女の子もいたら普通に女の子の方を好きになったかもと言って笑った。だっておっぱい気持ち良さそうじゃんと笑う日向はいつもの日向で、まだ恋をしたことがないからはっきりとは言えないけど、きっと鷹司と同じバイセクシャルなんだよと笑ったまま続ける。  槙村は彼女がいるからノンケだとは思うけどと前置きをして、でも彼女がいなかったらどうなっていたかわからないと曖昧に笑った。気になるやつでもいるのかと聞かれて慌ててるところを見ると、槙村はいつバイセクシャルに転んでもおかしくない危うい状態なのかも知れない。  俺はと言えば日向の言うように恋人と言われて思い浮かぶのは女の子だから、普通に異性愛者(ノンケ)なんだと思う。  だけど御子柴と同じように同性に恋に落ちる可能性も無きにしもあらずだと考えているあたり、相手は女の子(異性)に括らなくてもいいのかも知れない。 「僕は、羽柴君はある日突然、恋に落ちるような気がします」  今までは忙しすぎて恋をする暇もなかったですもんねと笑いながら、御子柴は教科書に目線を戻した。  岡崎君からラブレターを貰ってからこちら、恋について考える機会が増えた。まだ誰かを友達以上の感情で好きになったことはないけど、いつか俺も恋に落ちる日が来るんだろうか。 「そう言えば、生徒会もそろそろ一年生メンバーが入って来る頃ですよね?」  羽柴君にはそろそろ親衛隊も出来そうだしという御子柴の声を聞きながら、俺も教科書に向かったのだった。

ともだちにシェアしよう!