2 / 118

4月 和樹、寮長と再会

「ノムさんじゃないっスか。久しぶりですね」  大柄な彼を見る為に、俺は上を見上げる。  彼はB寮の寮長、野村北斗(のむら ほくと)。通称ノムさんだ。 「久しぶりだな。和樹、元気か?」  ノムさんは俺の背中をバンバン叩きながら聞く。 「俺、花粉症なんで、テンションだだ下がりですよー」  俺は正直に答える。  目が痒くてゴシゴシと掻いていると、それを見たノムさんが目をひそめて「擦るなよ」と言った。 「あんま擦り過ぎるとシワになるぞ」 「ノムさんみたいな?」  あははと笑って言うと、彼の纏う空気が一変する。 「あ……」  俺は彼の地雷を踏んでしまった事に気づいた。 「和樹くん、今、何か言ったぁ?」 「いやぁ、何でもないっス!」  俺はできるだけ笑顔で否定した。  何を隠そう、ノムさんの目元には笑うとシワができるのだ。そのせいで彼は高三にしては老け顔である。  したがってノムさんに対して『シワ』や『老け顔』はNGなのだ。  大丈夫……俺は何も言ってない。  自己暗示を掛け終え、彼に向き合う。 「あ、俺の部屋どこっスか? 早く荷物整理したいですんで」 「……ああ216号室な、これ鍵」  渡されたのはふつーの鍵。決してカードキーとかそんなんじゃない。俺はノムさんから鍵を受け取り、部屋へと向かった。

ともだちにシェアしよう!