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4月 和樹、寮長と再会
「ノムさんじゃないっスか。久しぶりですね」
大柄な彼を見る為に、俺は上を見上げる。
彼はB寮の寮長、野村北斗(のむら ほくと)。通称ノムさんだ。
「久しぶりだな。和樹、元気か?」
ノムさんは俺の背中をバンバン叩きながら聞く。
「俺、花粉症なんで、テンションだだ下がりですよー」
俺は正直に答える。
目が痒くてゴシゴシと掻いていると、それを見たノムさんが目をひそめて「擦るなよ」と言った。
「あんま擦り過ぎるとシワになるぞ」
「ノムさんみたいな?」
あははと笑って言うと、彼の纏う空気が一変する。
「あ……」
俺は彼の地雷を踏んでしまった事に気づいた。
「和樹くん、今、何か言ったぁ?」
「いやぁ、何でもないっス!」
俺はできるだけ笑顔で否定した。
何を隠そう、ノムさんの目元には笑うとシワができるのだ。そのせいで彼は高三にしては老け顔である。
したがってノムさんに対して『シワ』や『老け顔』はNGなのだ。
大丈夫……俺は何も言ってない。
自己暗示を掛け終え、彼に向き合う。
「あ、俺の部屋どこっスか? 早く荷物整理したいですんで」
「……ああ216号室な、これ鍵」
渡されたのはふつーの鍵。決してカードキーとかそんなんじゃない。俺はノムさんから鍵を受け取り、部屋へと向かった。
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