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4月 和樹、同室者に会う
「あ、そうだ。同室者誰か聞くの忘れた」
まぁいいやと思い、二階への階段を上る。どうせほとんどのヤツらのこと、知らねーし。
俺は二階へ上がり自分の部屋を探す。
「214……215……あ、ここか」
ドアの横には部屋番号と共に、その部屋で暮らす生徒の名が書かれたプレートが掛かっている。
俺の同室者は千葉陽平(ちば ようへい)という男で、やっぱり知らないヤツだった。
ドアを開けようとすると鍵が掛かっていた。どうやら千葉くんはまだ来ていないらしい。
「気まずいな……」
先に中に入って後から誰かを待つのは、実に気まずい。
どうせなら後から入りたかった。
そんなことを逡巡してると、背後から声をかけられる。
「そこ俺の部屋だけど」
後ろを見ると、切れ長の目を眠そうに細めた男が立っていた。
この高校はある程度の着こなしは自由だが、彼は制服に黒いニット帽を被っている。良いのか……。
「……もしかして千葉くん?」
俺に声をかけたということは、彼が同室者なのか。
俺の反応を見て、彼も気づいたようだ。
「お前もこの部屋?」
「そだよ。俺は瀬川。よろしく」
俺はニコリと笑ってみせた。
だが――。
「千葉だ。鍵開けるから、そこどけ」
「……サンキュ」
どうやら千葉くん……改め千葉はクールなタイプのようだ。俺もサバサバしたタイプだから、彼のようなヤツが同室なのは正直ありがたい。
千葉の後について部屋に入る。
中央の共有スペースにはソファーセットや小型の冷蔵庫、簡易キッチンがある。別の建物に大浴場があるが、寮の部屋にはシャワーもついている。なかなか快適だ。
千葉は向かって右側の個室に入った。元々決まっていたようだ。俺はノムさんに聞く前に来てしまったのだろう。
俺は千葉と反対側の部屋に入り荷物を確認する。個室はベッドに机、棚などが設置してある。これまた快適だ。
俺はベッドに鞄を放り、制服から私服へ着替える。どうせすぐ着替えるなら、家を出るときから私服でも良いじゃないかと思うが、それは学校だからという理由で片づけられるらしい。
今日が入寮日で明日が入学式、その次の日は始業式で、授業はそのまた次の日からだ。
新たに始まる学校生活を考えると頭が痛くなる。
まぁ、そこまでみんな俺のこととか覚えてねぇだろうから大丈夫か。
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