105 / 118

7月 疑惑の図書室

「マジであのポン太の野郎末代まで呪ってやる!」  廊下に貼り出されたテスト範囲表を見て、俺は丸々と太った学年主任に呪詛の言葉を投げかけた。  俺こと瀬川和樹は今年に入って最大のピンチを迎えた。  それは一学期末テストである。  五月に人知れず行われた中間テストで、俺は赤点ギリギリを取ってしまったのだ。つまり、今回の学期末でも似たような点数を取ると、追試確実、さよなら夏休みなのだ。  俺の属する2年B組、つまりBコースというものは、簡単に言えば普通な奴らが集まったコースである。文理系が強いAコースに行くではなく(まれに例外もいるが)、かといってスポーツが得意なCコースに行くでもない。  将来のことなんか何も考えてない、といっちゃあ失礼だが、そこそこ普通の大学入るか就職できればなあと思っている連中が多いのも確かである。  本題がそれたが、先に言っておくと俺の学力レベルは中のなかの中。決して悪いわけではない。ただ、英語が壊滅的なのである。  俺の英語を抜いた四教科の平均点はだいたい六十から七十。それなのに英語は高くても五十。赤点ラインは四十。そしてこのままいけばおそらく、学期末は赤点確実。  それはなぜかって?  先月の新勧でひどい風邪を引いた俺は、十日近く授業に出られなかったんだよ!  しかも、その間にテスト範囲を終わらせて、要点をまとめたプリント的な何かが配られたらしいが、俺はもらっていない。同室者の千葉に聞いても知らんと言われる。 「むかむかする。なんだ、このテスト範囲は嫌味か!」  苛立ちのままに、俺は廊下の壁を小突いた。 「おい、やめろ瀬川。見苦しいぞ」 「うっせーよ、千葉! 何だその顔はイヤみか? 顔面偏差値高くて頭の出来も良いとかふざけてるだろ、いったん爆発しろ」 「そこに運動もできる、も付け足しておけよ」 「はあ? 大和から聞いたけど、お前アレじゃねえか! アレがアレしてそれでアレで――ああ! もう! だから千葉、お前のモテ要素に運動できますアピールは入らない! 却下!」 「壊滅的な語彙力のなさだな」 「うっせー! お前に気を遣ったのがわからんのか!」 「ハンデを抜いてもお前より足速い自信はあるぞ。体力テストの五十メートル走。お前、何秒だっけ?」 「あんなもん五十メートルでも百メートルでも走れりゃいいんだよ、走れりゃ!」 「お前、運動神経は人並み以下だからな」  ああ言えばこう言う。ホントにムカつく野郎だ。

ともだちにシェアしよう!