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7月 和樹の傷心

「懐かしいな」  二階フロアに上がると、先輩が感慨深そうに言った。 「先輩はどの部屋だったんです?」 「たしかもっと突き当りの部屋で……ああ、これだ」  先輩が指したのは俺と千葉が使っている216号室の隣の隣、218号室だ。 「まあ、内装とかそんなに変わらないですよね。あ、俺の部屋、ここっす」  ドアノブをひねると鍵がかかっている。まだ千葉は帰っていないらしい。俺は鍵をあけて先輩を招き入れると、共有スペースの奥にある自室へ導いた。 「意外と片づいているんだな」 「先輩の部屋はもっと綺麗でしょうね。何か、最低限のものしかないイメージ」 「まあ、当たっているかな」 「先輩、何か飲みます? お茶かオレンジか牛乳。全部ペットボトルだけど」 「瀬川と同じもので」  そんなこと言ったらオレンジジュースにしますよ。真面目そうで大人な先輩に、オレンジジュースはまったく似合わないが、逆にオレンジを飲む先輩というのもの見てみたい気がした。 「すぐ用意するんで、どっか座っていてください。それから――」  そのとき、閉じていたはずの自室のドアが突如として開く。俺も先輩も何事かと、そちらを見る。そして俺は――馬鹿みたいにキョドってしまう。 「ち、ちちち千葉? え、早くね? 何でもう帰ってくるの? つーかここ俺の部屋! わかる? 千葉くんのお部屋はお向かいですよお!」  俺なりの、誤魔化しの効いたジョークのつもりだった。  だが、千葉は――。 「邪魔したな」  それだけ言い残して、部屋を出てしまう。共有スペースを抜けた千葉はそのまま外へ行ったようだ。  重たく閉まった扉の閉開音が、なぜか俺の心に嫌な傷を残した。 【7月 疑惑の図書室】了

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