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第5話

 ギィイ、と正面の扉が開いた。最終決戦に備えて、おのおの密かに武器を構えたところに、とびぬけて大柄な鬼がのっしのっしと近づいてきた。  すさまじいオーラを全身から発散していて、 「ヤバい、ヤバいっすよ。あんなデカブツとバトルったら俺ら瞬殺ですよ。命あっての物種って言うじゃないですか、勇気ある撤退をしましょうってば」    トリオがひと塊に桃太郎の陰に隠れる。  稲妻が走り、首領を鮮やかに照らし出す。  鬼といえば、もじゃもじゃ頭に赤ら顔というのが定番のイメージだが、首領は案に相違して菅田将暉風のシュッとした男前だった(佐藤健でも松坂桃李でも可)。  かたや桃太郎は門を挟んで首領と向かい合ったせつな、どんどこ、どんどこ、と異様な胸の高鳴りを覚えた。  話が前後するが、ヘアスタイルのほうもお伽噺の慣例に従って前髪はふたつに分けて垂らし、残りはポニーテールもどきに束ねている。  小刻みに震える指で、ほつれ毛をそわそわと撫でつける。  この面妖なときめきには、いったいどんな要素が含まれているの? 首領と目が合うたび心臓が跳ねて、腰がもぞついて、今にもへなへなと(くずお)れてしまいそう。    トリオは察した、そしてパニクった。緊急事態発生、三度のご飯よりエッチが大好きな桃(尻)太郎が、よりによって敵方の大将に一目惚れしたもようです。  実は首領のほうも胸がきゅんきゅんするのに戸惑っていた。水蜜桃のような頬に、つぶらな瞳。桃太郎は、なんて愛らしいのだろう。  それはさておき討伐隊として派遣されて、えっちらおっちらやってきたのだ。使命を果たさないことには、お伽噺の世界に囚われたまま。  ほのかにイカ臭い学園ライフを再び満喫するために、がんばらなくっちゃ。  四人は円陣を組んで気合を入れ直した。ところが死闘を演じる展開になると思いきや、予想の斜め上をいく場面が繰り広げられる。  首領が、びしょ濡れの迷い犬──推定生後三ヶ月──に傘を差しかけてやったのだ。

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