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第7話

 首領が苦悩に満ちた表情を浮かべた。 「すまない、鬼は悪事を働いてナンボと粋がっていたばかりに悲しませて」  桃太郎も純愛モードに切り替えると、上目づかいに睫毛をしばたたいた。 「ううん、僕のほうこそ鬼は根絶やしにされても当然なんて偏見に凝り固まってたんだ。ごめんね」    ふたりは寄り添って座った。海辺の村では、生き残りの鬼たちがリベンジを誓って特訓に励んでいたが、正直に言って知ったこっちゃないったら知ったこっちゃない。 「ヘイ、あっという間にメロメロ、恋の炎がメラメラ、理性なんかメリメリ」  猿渡、雉原、犬丸がラッパーになりきって歌う。曲調は次第に演歌っぽい哀愁を帯びていき、 「さくっと鬼をやっつけて、金銀財宝を奪還してずらかるはずがぁ、男心はピンク色、あああああ鬼ヶ島ぁ」  声を()らして熱唱しても、恋の虜と化した者たちの耳に雑音は入らない。  現に桃太郎と鬼の周りにはバリアが張り巡らされているかのごとく、何人(なんびと)たりとも立ち入ることのできない雰囲気が醸し出される。 「地べたにじかに座っていては冷える。ここを座布団代わりにすればどうだ」  首領が照れ隠しなことが丸わかりの仏頂面で、自分の太腿を指し示した。  桃太郎は様式美に則っていちど遠慮してから、そうした。  頭の両脇からにょっきりと生えている二本の角を左右交互に撫でているうちに、むらむらしてくる。  形といい太さといい長さといいディルドにもってこいだ。トカゲの尻尾のように切り落としても再生するタイプのものなら一本……いいやスペアも欲しいから二本とも譲り受けて、ひとりエッチのさいに活用したい。  と、まあ、いついかなるときも性生活の充実を図るアイディアが浮かぶあたり桃(尻)太郎の面目躍如といえよう。

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