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第10話

 それは究極の二択だ。  今までどおりセフレを侍らせてエロ三昧の青春を謳歌するか。  ラブラブダーリンとハネムーン気分だもんねぇ、と逃避行をつづける代償にお尋ね者の汚名を着せられて裏街道を歩いていくのか。  トリオを元の世界につれて帰る責任もある。まさしく〝ザ・板挟み〟。  ここは、お言葉に甘えて討ち取らせていただくのが正解なのかもしれない。  柄が汗ばむにしたがって現実逃避の最たるものだ。スターバックスのメリーストロベリーフラペチーノが無性に食べたくなった。  加えて里心がついた。そうだ、時空の狭間を永遠にさまよいっぱなしの身になり果てたら、おじいさんとおばあさんに育ててもらった恩返しするという将来設計がパアだ。  心を鬼にして〝桃太郎〟のストーリーに忠実な行動をとって、カタをつけてしまおう。  刃先を首筋にあてがい、そっとすべらせた。  もっとも数ミリ動かすのが限度だ。ぷくり、と血の珠が盛りあがるか盛りあがらないかのうちに、桃太郎はがたがたと震えだした。 「その調子では豆腐さえ切れないぞ」 「無理、無理無理無理無理! 鬼ちゃんと共白髪がいいよぉ、うわ~ん!」    泣き叫びながら刀を投げ捨てた。刃こぼれするどころか折れ曲がるまで、こんなもの、と踏みにじった。    切なさをかき立てるように潮騒が高まり、艶艶(つやつや)しい角がにわかにくすんで見えた。  桃太郎くん、きみのためなら身命を(なげう)つ覚悟がある。だが、きみに罪悪感を抱かせるようでは本末転倒で、俺は、俺を赦せない。  ことほど左様に、首領は惜しみない愛情をそそぐ相手に巡り会えた歓びに打ち震えていた。  と、ともに、荒ぶる心の赴くままに乱暴狼藉を働いてきた日々のあれこれの場面がショートムービーのように脳裡をよぎり、しばし自己嫌悪の海に溺れた。  (まなじり)を決すると、鬼のアイデンティティに等しい角をへし折った。

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