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第9話

 ふたりは駆け落ちした。トリオが後を追いかけ、鬼の一味の残党もつづいた。 「桃会長、俺らを見捨てないでくださいっす。つれてってぇ」 「ボス、人間ごときの色香に迷うとは鬼の面汚しだ。緊急動議だ、リコールだ」  逃げ回っているうちに断崖絶壁へと追いつめられた。眼下で白波が砕け、真っ逆さまに落ちればあの世行き。  首領はためらいもみせず桃太郎をおぶって崖をつたい降りる。そして洞窟に隠れた。  だが、遠からず見つかるだろう。首領は裏切り者の烙印を押されて袋叩きに遭うかもしれない。桃太郎にしても契約不履行で訴えられるかもしれない。  別離の時が迫っていた。 「出会うべくして出会ったのに引き裂かれる。ひどいよ、運命は残酷だよ、鬼ちゃんと離れたくないよぉ」  号泣に次ぐ号泣で、海水の塩分濃度が一気に増した。 「愛別離苦とは(はらわた)がちぎれるようにつらくて、角が粉々に砕け散るより堪えがたいものなのだと痛感する。これも、やりたい放題にやってきた報いか」  首領が自嘲気味に嗤った。突として居住まいを正すと、細腰(さいよう)に帯びた刀へと顎をしゃくった。 「カクカクシカジカの説明によると、()っ首と引き換えに晴れて自由の身となるのだな。ならば、ひと思いに()ねてしまえ」    するりと鞘から刀を抜き取り、桃太郎に(つか)を握らせると、その上から自分の手を重ねた。  首領は断頭台の露と消えたマリー・アントワネット以上に潔く、顔をうつむけた。  ひと太刀で決めろ。暗にそう促す構図だが、では失礼つかまつってスパーンといけるはずがない。  桃太郎はかぶりを振り、首領の手をむしり取りにかかった。だが力では敵いっこない。  かえって刀身がするすると持ちあがり、うなじに押し当てられる。

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