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春 一太 ①

春の季節     春、といっても桜はとうに散ったし大型連休も昨日終わった。 今日からまたいつもの高校生活。それは毎年変わらない。 ただ今年違うのは、あいつがいないことだ。 梓 一太は誰よりも早く学校に来ている。 真面目な性格で遅刻は絶対にしない。 短めの黒髪に制服のブレザーも着崩すことなくきっちりと着用している。 一太は教室の自分の席に座りスマートフォンの画面を見ていた。少しずつクラスメイトが登校してくる。 この高校では三年間同じクラスなので、二年生になった今年も去年と同じ顔ぶれだ。 「梓、おはよう」 クラスで一番仲の良い遠見 映一が声をかけてきた。 遠見は薄茶色の髪に垂れた瞳の優しい顔立ちで、人当たりも良い。一太とは高校に入学してから出会い仲良くなった。  「おはよう」 一太はスマートフォンから目を離し答えた。 「何見てるの?」 「えっ、あぁ」 と一太が答えようとした時だった。 「「「梓君!!」」」 数人のクラスメイトの女子生徒達が一太の机を囲むようにやってきた。 「ねぇ!東って東京で彼女できたの?!」 一太はドキリとした。 しかし一太が答える前に遠見が答えた。 「何?何かあったの?」 「あぁ、遠見君おはよう。昨日のね、東がSNSにあげた写真!見て、この子!」 一人の女子が遠見にスマホの画面を見せた。 それは数人の男女が仲良さそうに写っている写真だった。   その中に見慣れた長洲 東の笑顔がある。 茶色がかった少し長めの髪に、嫌味のない明るく爽やかな笑顔。 一太のよく知る東だ。 「この東の隣にいる子、他の写真にもやたらといるんだけどさ、仲良さげで。距離が近いって言うかさ!怪しいよねって話してたの」 東の隣には明るそうな可愛らしい女子が写っていた。 「へぇ、梓は何か聞いてる?」 遠見はチラリと一太を見て聞いた。 「知らない」 一太はぶっきらぼうに答える。 「だよね、俺も東から何も聞いてないしな」 遠見はそう答えて女子達に視線を戻した。 「えー怪しいんだけどなぁ。今度電話して聞いてみる?」 「そうだね!いっそ東が向こうの友達と遊んでるタイミング狙ってさー」 「それいぃー!」 女子達はワイワイと話しながら去っていった。 もうこの学校にはいないのに、東は相変わらず話題の中心にいる。 一太は幼馴染みの東の事を考えた。 東とは小学生からの仲だ。 小さな町だから高校まで顔ぶれはたいして変わらず、友人関係も変わらなかった。 東は明るく社交的で誰とでも仲良くできる奴だった。真面目であまり融通の聞かない一太とも自然と接し、嫌がることなく仲良くしてくれた。 その東がこの町を去ったのが今年の春。 親の仕事の転勤で東京へ引っ越していった。 この町から東京なんて、あまりに遠く現実味がない。 だけど、いつも騒がしかった東は確かにここにはいない。 この静けさが東がいなくなったことを証明してくれていた。 そして先程の写真からも伝わる通り、東はすでに向こうでたくさんの友人ができたようだ。    こんな田舎の、何もない町の事を忘れるのも時間の問題なのかもな、と一太は思った。

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