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第1話

 一目見たときに気付いていた。 『こいつは俺と同じ目をしている』と。  深紅のライトがステージを染めていた。  見る者を煽る様に響く音楽。それに合わせ蠢く肢体には、派手な色付けをされた縄がきつく食い込んでいた。  ステージの中央には縄を口に咥え、次々に男たちを縛り上げていくエナメルを纏った者が一人。  濡れたように輝く長い黒髪を垂らし、顔にはエナメルの仮面を着けている。細く縊れた腰まわりは、ボンテージスーツから腹筋が覗き、深紅のライトに照らされていた。  細く引き締まった足にはピンヒールの艶めいたロングブーツを纏い、ヒールの踵を、四つん這いになった男の尻に突き付けると、縛られた男は歓ぶように身体を震わせた。 「あのボンテージ、新人らしいですよ」  隣に座っていた接待のスーツ姿の男が嬉しそうに耳打ちした。 「今日のショーのために用意した期待のやつだとか。顔が見えないのが残念ですが、きっとプレイほどではないんでしょう」  縛られた男の尻を、激しく打つ音が響く。見れば四つん這いの男に腰をかけ、ボンテージ姿の演者は煙草に火を点けるところだった。  仮面の下の顔は、その造詣が全く分からないが、流し目にこちらを見ている。その視線を感じて、貴遠はその目を見返していた。 「こちら、見てますよ。どうします?ステージに引き上げられたりしたら。相手しますか?」  男は冗談のように笑った。貴遠は、見返したまま、微笑を浮かべた。 「悪くない。…俺がそのまま調教し直してやってもいい」 「おぉ、怖い。さすがですね、松宮さんは」  男は笑って、ボーイを呼ぶと、何かを耳打ちする。了解したとばかりに頷くと、ボーイは店の奥へと消えた。  ステージが終わったのか、音楽がフェードアウトし、紅いピンスポットを連れるように、ボンテージ姿の主役は踵を返す。  舞台上から見下ろすその目を見返して、貴遠は、ショットグラスを口に運ぶと、ストレートのウィスキーを含み、消え去っていく背中を見送った。  店奥からボーイが一人の男を連れ戻ってきた。対面する接待の男に何やら耳打ちをし、ボーイの代わりに恭しく頭を下げた男は、店の支配人だった。 「申し訳ありません、松宮様。本日のメインはすでに退店しまして…なにぶんまだ作法も解らぬ新人でございます。代わりと言っては何ですが、当店秘蔵の美酒をご用意いたしました。お口に合うか、ぜひ……」  支配人の言葉を、貴遠はどこか遠くに聞いていた。接待の男は、どうやら先ほどまでショーに出ていたボンテージを呼びつけたようだった。支配人自ら詫びを口にし、代わりに酒を用意したとなれば、高価な酒と同等の価値が先ほどの演者〈トップ〉にあったということなのだろう。 「松宮さん、どうしますか」  接待の男は、貴遠の顔を伺っていた。貴遠は、微笑を浮かべると頷いて支配人を見た。 「躾甲斐があるじゃないか。構わない。次の楽しみにしておくとするよ」  貴遠の言葉を聞き、支配人の男は頭を下げ、用意していた酒を自ら注ぎ差し出した。  受け取ったグラスから立ち上る香りを嗅ぎながら、貴遠は先ほどまで見つめ合っていたあの瞳を、思い出していた。  鋭利な、ナイフのような視線を。

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