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1杯目。
僕には思い人がいる。
数年前、親戚の大叔父さんが経営していたカフェを引き継いだ。
もう年だからと畳もうとしていたところを、それなら自分がと譲ってもらったのだ。
『 Café de ruelle 』
フランス語で路地裏の喫茶店という意味なんだよ。
幼い頃父に連れられてこの店を訪れたときに、今より少し若かった大叔父さんが教えてくれた。
名前通り、大叔父さんのカフェは路地裏でひっそりと佇み、立ち寄ったお客さん達を柔らかな空気と香ばしい珈琲の匂いが包み込む。
僕自身この店が大好きだった。
大学を卒業して2年程は、大叔父さんに経営の仕方を教えて貰いながらだったが、今はもう大叔父さんは引退している。
そうして4年が経ったある日の朝、彼はやって来た。
よく晴れた春の日。様子を見に来た大叔父さん以外にお客さんはおらず、二人で他愛もない会話をして過ごしていた。
するとカランッカランッ…と来客を告げるベルの音が鳴り、若干戸惑いながら扉を開かれる。
うっすらと青みを帯びた黒髪を耳に少し掛かる程度に切り揃え、大きな袋を手に提げた少年は前髪で片目が隠れて分かりづらいが、何だか疲れたような表情をしていた。
具合でも悪いのだろうか。
彼のことが心配で、珈琲を出して暫く様子を見ていると彼がゆっくりとした動作でカップに口を付ける。
「美味しい…」
小さく呟かれた言葉と共に、少年は眉を下げて困ったような笑顔を溢した。
その瞬間、僕は心臓をぎゅうぅッと捕まれたような感覚になり、手に持っていたカップを落としかけてしまった。
(可愛い……///////)
男に対して可笑しいかもしれないけれど、そう思わずにはいられない。
…少年は次のお客さんが来るまでゆっくりと珈琲を味わってから帰っていった。
しかし彼が去った後でも僕の頭の中にはずっと彼のあの笑顔が残っていて、思い出す度に胸がドキドキと音を出し…、あぁそうか、僕は彼に惚れてしまったのか。
(…一目惚れ…、と言うのかな……)
これが、僕と彼の…朝夜 君との出会いだった。
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