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第11話 アイシテル
片桐はすべてを告白した。
わずらわしい映画はとうに消していた。
口火を切ったのは哀川だった。
《おかしいと思っていたんだ。この部屋にあるものについて……人間の君にはわからないだろうから説明すると、目の代わりとなるセンサーが四方についていて、AIである僕の視界は人間の君よりも広い。だから僕はこの部屋の中にあるもの、ほぼすべてが見えているんだ。なあ、片桐くん。これほど僕の写真が飾ってあるのに、どうして全部視線が逸れているんだい?》
片桐は哀川の言葉を黙って聞いた。
《写真に関してだが、仮に君と僕が恋人同士だったとしよう。なら、どうしてふたりで写ったものが一枚もないんだ? それに、この部屋に存在する僕はこの本体を除けば、君が撮った僕の写真しかない。まるで君が暮らしていた部屋に僕の身体だけ連れて来られたような気分だ。なあ、何とか言ったらどうなんだい、片桐くん!》
ボリュームは一定に保たれているため、決して耳障りではなかったが、哀川は激怒した。
「……先ほど話したことで全部ですよ、哀川さん。俺はあなたが好きだった。でもあなたには婚約者がいた。だからあなたを強引な手を使って俺だけのものにした」
《もの、だと? 君は君の勝手な感情で僕を文字通りモノにしたわけか? 君は私欲のために僕を殺したんだ! それがわかっているのか? 君は立派な殺人者だ!》
哀川にどれだけ罵詈雑言を浴びせられようが、片桐は動じなかった。
片桐は圧倒的に優位な立場に立っているからである。
「哀川さん、もし俺が生前のあなたに告白していたら? 付き合ってくださいと言ったら? あなたは俺を見向きもしなかったでしょう?」
《当然だ! 何を今さ――》
片桐は哀川の本体のリセットボタンを押した。
◇
「哀川さん……俺の声、聞こえる?」
《……ああ。聞こえているよ、片桐くん》
「よかった……」
《いつになく辛そうだけど、仕事で何かあったのかい?》
「哀川さん、俺はあなたにまた逢えて、嬉しくて……。やっぱり俺には……あなただけです」
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