10 / 10

第10話

「なあ。子供って生まれるのいつ?」 運転する城島の隣りで槙野が言う。 「ん?ああ今3ヶ月だから春だな春」 「いいねえ。名前つけさせてよ」 「はあ~?なんでだよ」 「生まれるのって男?女?まだわかんない?」 「あー女。娘だよ。絶対カワイイ」 早くも親バカを発揮してか城島の頬が緩んだ。 「女か……」 槙野が黙りこんだ。 信号待ちで車を停めると槙野を見て城島が言った。 「オマエ……なんだその不穏な沈黙は。あ~言っとくけど娘に手を出したらブッ殺すからな」 「いやいや名前を。それにオレ女は……そっかその手があったか。オマエが義理のお父さんってのもいいな」 「ふっざけんな。同い年の婿なんていらねえぞコラ」 「でもな、オレ女イけるかな」 「そうだろそうだろ」 「いや、オマエの遺伝子入ってるならイけるか。頑張れば」 「てめえマジふざけんな~頑張るな」 「ハハハハ。いや頑張る頑張る。ほら城島、信号青」 槙野は数カ月ぶり、いや何年ぶりかに心の底から笑った。 そして思った。 バカ話してオレたちはこれからも続く。 こんなことになるとは思わなかったけど。 たとえ友達としてしか許されないとしても、オレはこの男のそばを離れられない。 そう思い知った。 オレ達の先は長い。 オレがこの想いを今世で昇華すれば来世まで続くらしいから。 来世を夢見て、オレは死ぬまでこの男のそばで生き続けることになるだろう。 窓の外を見れば青空に入道雲がもくもくと浮かんでいる。 真島くん、地獄の先には思ってもみなかったちょっとした天国があったよ。 またいつか君と出会えたらいいな。 その時は笑って話をしよう。 槙野は心で少年に話しかけ微笑んだ。 ~ 終 ~

ともだちにシェアしよう!