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俺の新しい生活の始まり①

 オーランド国、首都クリスタ、そこは人口10万人程の大きな都市だった。 地方都市で育った田舎者の俺はそのいかにも都会という賑わいを見せる街に戸惑いを隠せない。 「カズ、よそ見をして歩いているとぶつかるぞ!」  ライザックに肩を抱き寄せられて、なんだか少しどきっとした。まぁな、一応ライザックは結果的に俺の初めての男になった訳だしな。この世界に女はいないそうだし、だとしたらこの先も恋愛対象は男になるのだろうから、少しくらいときめいても変には思われないだろう。 「すみません、旦那様」  従者が主人に守られるだなんて本末転倒も甚だしい。俺はその人ごみに立ち向かうべく前を向く。  「カズは少し危なっかしいな」なんてライザックは穏やかな笑みで、何だろう、このイケメンきゅんとくる。  いかんいかん、一度体の関係を持ったからと言ってもアレは純然たる治療行為だ、変な期待はしてはいけない。ってか期待? 俺はこいつに惚れたのか? いやいやそれは少し早計だろう?   よく分からない世界で優しくされて、ちょっと心が揺れてるだけだ。 「カズ、我が家に着く前にひとつだけ告げておかなければならない事があるのだが」 「ん? なに……いや、何ですか?」 「二人きりの時は普通にしていてもらって構わないのだが……」 「?」  何故か少しだけライザックが言い難そうに瞳を逸らす。 「私の本名はライザック・オーランドルフと言うのだが、カズは知っているか?」 「? 何をです?」 「やはり、知らないのか……」  ライザックが困惑顔で苦笑した。知っている、というのは名前を? という事なのだろうか? そもそも俺、この世界の事何も知らないんだから知る訳ないじゃん。 「ライザック……っと、旦那様はもしかして有名な方なんですか?」 「私自身はさほど、なのだが、本当に知らないのか? オーランドルフという名を聞いた事はないのか?」 「知りませんね」  でも、ちょっと待て、字面的にちょっと聞き覚えがなくもない? 最近どこかで聞いた気がするが、はて? 「この国の名はオーランド、私の姓はオーランドルフ……これで少しは分かってもらえるか?」 「!? え? まさか王子様!?」 「いや、この国は王政ではないから国王はいない」 「なんだ、だったら何ですか?」 「いや、いい。カズがその程度の認識なら問題ない」  いやいや何だよっ? 気になるだろ!? 確かに聞き覚えがあるはずだ、だって俺のこの国での知識は今の所、国名のオーランド国と首都名クリスタ、そしてライザックの名前だけなんだもんよ。あ、あと触手の名前がワームだってのも覚えたぞ! 「旦那様はもしかして貴族とか、偉い人だったり?」 「それも私自身はさほど、だな。まぁ、貴族ではあるが私は末端なのでな」  なるほどそれで家にメイドなのか。使用人がいる家って凄いなとは思ったんだよ。だけど、こういう世界では普通なのかとも思ったんだ。だけどライザックは普通に良い家のぼんぼんなんだな。うん、なんか雰囲気的に育ち良さそうだもんな。 「カズは本当に何も知らないのだな」 「仕方ないでしょう? 俺はこの国の人間じゃないんですから」 国どころか、恐らく俺はこの世界の人間ですらないのだろうし、はっきり言ってこの世界での俺の持ってる知識量なんて赤ん坊同然だ。 「まぁ、私としてもオーランドルフという名に臆する事も媚びる事もないというのは非常に助かる」 「? 何かそんなに大変な名前なんですか?」  ライザックはやはり少しだけ苦笑して「そのうち分かる」と、俺の頭を撫でた。ってか、子供扱い!? 確かにライザックは体格がいいけど、俺だって普通に170あるのに……ってすんません、少し盛りましたホントは165しかないです……くそっ、チビで悪いかっ! 無駄にでっかい奴なんて大嫌いだっっ!!

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