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俺の新しい生活の始まり②

 俺は今、あんぐりと口を開けてある家の前に佇んでいる。そこは家と呼ぶにはあまりにも大きく、屋敷と呼ぶに相応しい建物が鎮座しており、俺は恐る恐る傍らのライザックを見上げた。 「旦那様はさっき、自分は末端貴族だと仰ってたように思うのですけど、俺の聞き間違いでしたでしょうかねぇ?」 「見てくれが大きいだけで、大した事のない家だよ。しいて言えば大きなほったて小屋だ」  いやいや、大きなほったて小屋って……これだけ立派な外観をしていたら中も立派に決まってんだろ! ライザックがすたすたと敷地の中に入って行くのを俺は慌てて追いかける。  デカい玄関は両開きの観音扉だ、そして扉にはでっかい輪っかが付いている。俺、これ知ってるぞ、この輪っかで扉をノックするんだよな? 日本じゃあんまり見かけないけど、ライザックの見た目も西洋系だし、割と文化もそっち寄りなのかな?  ライザックがそのドアノッカーで扉を叩くと、間もなくその大きな扉が開いた。 「おかえりなさいませ、ご主人様」  ここはメイド喫茶か!? と心の中で突っ込んだのは一瞬で、対応に出てきた使用人は至って真面目に頭を下げるので、本当にライザックはこの家の主人なのだなと俺は態度を改めた。 「うん、ただいま。ミレニアは?」 「ミレニアさんでしたら、奥にいますよ。呼んできましょうか?」 「いやいい、こちらから行こう。ハインツ、紹介しよう、新しい使用人のカズだ」 「新しい……?」  ハインツと呼ばれた男が首を傾げた。年の頃は俺とさほど変わらないように思う彼は俺を見やって小首を傾げた。 「なんでまた? 何処で拾って来たんです?」 「まぁ、話せば長くなるのだが事情は追々。ハインツ、カズに部屋を用意してやってくれ」  分かりましたと頷いてハインツは屋敷の奥へと消えて行った。ライザックは「こっちだ」と俺を促し屋敷の奥へと足を向けた。  ライザック曰くのほったて小屋は質素ではあるがしっかりした造りの屋敷で、ライザックが何故そこまで謙遜するのか分からない俺は首を傾げる。 「ミレニア! ミレニアはいるか?」 「はい、ご主人様。お帰りでしたか、気付かず申し訳ございません」  ライザックの声に反応したと思われるミレニアさんが奥の部屋から顔を覗かせた。ってか、ミレニアさん……滅茶苦茶美人なんですけどっ! え? もしかしてミレニアさんってライザックの奥さん!?  確かにその人は男の人なのだとは思うのだ。何故なら普通に俺より背が高いし、すらりとしていて肉付きの薄そうなその身体に凹凸はほぼない。けれど、目鼻立ちがモデルか!? と言わんばかりの美しさで、これなら男でも全然いけるわ……と俺はまじまじとミレニアさんを見やった。  そして、そんなミレニアさんにはひとつ大きな特徴が、それはもう本当に俺にとっては魅力的で目が釘付けになってしまったのだけれど、ミレニアさんには耳と尻尾が付いている。形のいいピン! と立った耳、そして顔を埋めたくなるようなもふもふの尻尾! いいっ! 凄く良い!  俺の家、昔からペットがいない時期がないってくらい動物と慣れ親しんで暮らしてきた家だから、もふもふにはめっぽう弱いんだよ。 「ん? こちらは?」 「あぁ、新しい使用人のカズだ」 「使用人? 聞いていませんね」  ミレニアさんは不躾な視線を俺に投げて寄越す。綺麗な顔立ちなせいか一見冷たく見えるのだけど、一通り俺を眺めまわしたミレニアさんは「よろしく」と俺に手を差し出した。 「初めまして、渋谷和寿です」 「シブヤ……カズ……え?」  どうもこちらの世界では俺の名前は発音しにくいのか、それとも単純に聞き慣れないのか怪訝そうにミレニアさんに首を傾げられたので、俺は「カズでいいです」と苦笑した。 「ミレニアは我が家の執事だ。家の事は全てミレニアが取り仕切っている、分からない事があればミレニアに聞けばいい」  あ……奥さんじゃないんだ、執事さん? なんか執事ってもっと年寄りのイメージがあったんだけど、若いな。 「ミレニア、母上は?」 「本日も体調がお悪いそうで、部屋でお休みですよ」  ライザックは「そうか」とひとつ頷き、今度は俺の方に向き直ると「私は少しミレニアと話がある。カズは庭でも見ておいで」と背を押された。 「え……でも、旦那様」  ふいにミレニアさんの耳がぴくりと揺れた。 「庭には綺麗な薔薇が咲いていて、そこにパビリオンがあるからそこで休んでおいで。話が終わったら迎えに行く」 「パビリオン……?」 「ん? 分からないか? 屋根の付いた休憩所のような場所だ」  庭の休憩所? あぁ、確かにそういうの公園とかで見た事あるな、あれパビリオンって言うんだ。初めて知ったよ。  促された俺は庭へと向かう、散歩ができてしまうくらいに広いし結構立派だ。手入れも大変そうだと思うのだが、庭は綺麗に手が入っている。お抱え庭師とかもいるのかな? 細い水路のような小川も流れていて、これはやはり個人の邸宅じゃないよな……と俺は思う。  しばらく歩いて行くとライザックに言われた通りにパビリオンが見えてきた。屋根の付いた小さな休憩所、椅子や机も設えられていて、花を見ながらお茶会でもするのだろうか?  椅子に腰かけ、周りを見回す。なんだかやたらと優美だな。  あぁ……それにしても、俺、なんでこんな世界に飛ばされちまったのかな? やっぱり現実世界では死んだのかな? こんな事になるのなら、もう少し親孝行しとくんだった……

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