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俺の新しい生活の始まり③

 ぼんやり庭を眺めていたら眠くなってしまい、どうやら俺はうつらうつらしていたようで、肩に誰かが触れる感触に気が付くと、目の前にはライザックが心配そうな表情で俺の顔を覗き込んでいた。 「カズ、大丈夫か? 体調が悪いのか?」 「あ……ごめん、寝てた」  瞳をこすって大あくびをすると、彼はあからさまにほっとしたような表情で心配をさせてしまっていたようで申し訳ない。 「使用人なのに、図々しいな……すみません」 「疲れているのだろう、謝らなくていい。部屋の準備が整ったそうだ、案内しよう」  主人が使用人に気を遣うというのも変な感じだが、ライザックは最初からこんな感じで腰が低い。俺は先に立って歩くライザックの後を追った。連れて行かれた部屋は俺の元々暮らしていた俺の部屋とさして変わらない広さの部屋で、使用人の待遇いいな……と俺は思う。普通に相部屋とか、もっと日当たりの悪い物置みたいな部屋に案内されるかと思ったのに、全然普通だ。ベッドなんかの家具も一揃え揃っているし、さすがに服などの完全な私物は何もないけれど、ビジネスホテル並みの物は揃っていそうだ。 「服や日常生活に必要な物は明日ハインツと一緒に買っておいで」 「え……でも俺、金持ってないし……」  俺は恐らく身一つでこちらへ来たのだ。唯一学校の制服は着ていたのだろうが、それもワームに溶かされて、現在俺が着ているのはライザックの予備の着替えを恵んでもらった物なのだ。はっきり言ってサイズは合っていない。確かに腕まくり足まくり、ついでにだぼっとしたズボンは腰を紐で結んで止めるという荒業で、みすぼらしい事この上ないが、先立つモノがない以上どうしようもない。 「給金を先払いで貸しておくから、気にしなくていい」 「うっ、しょっぱなから借金生活か……まぁ、でも仕方ないな。ありがとう、ライザッ……っと、旦那様」  いかんいかん、どうも接しやすい空気に気安く声をかけてしまう。俺は使用人、彼は主人、線引き大事! 「二人きりの時はそれでいい」 「いやいや、駄目ですよ、分は弁えないと」  俺の言葉にライザックは「カズは思いのほか真面目なのだな」と可笑しそうに微笑んだ。いやだって、これ以上ライザックに迷惑かけられないだろう?  ライザックがふいに腕を伸ばして俺の頬を撫でた。何故そんな事をされたのか分からない俺がきょとんとしていると、彼は少しだけ困ったような笑みを浮かべる。 「どうかしましたか? あ……何か付いてた?」  慌てて俺が顔を拭うと、ライザックは瞳を細めて「カズは可愛いな」と、そう言った。

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