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一夜明け
朝日が顔にかかって眩しくて目が覚める。なんだか背中がとても温かい、だけど何だろう? 微妙な違和感を覚える、ここ何処だっけ……? 俺は身を起こそうとして、身動きできない事に気が付いた。身体が拘束されている? あの触手に犯された時の出来事が一気に思い出されて俺はその拘束を振り払おうとしたのだが、それと同時に激しい頭痛に襲われて、身動きが取れなくなった。
何だこれ? がんがんと殴り続けられてでもいるように頭が痛くて割れそうだ。
「つつつっ……」
「ん……カズ、起きたのか……?」
「え……?」
背後からかけられた声、驚いて振り返るとそこにいたのは眠そうな瞳のライザック。
「は!? え……?」
俺を拘束していた力が微かに緩む、よくよく見ればそれは俺の腰に回されたライザックの腕で、俺は意味が分からない。
「なに? あれ? ここ何処?」
俺は一体なぜこんな事になっているんだ? 昨日の記憶が曖昧で何がどうなっているのかさっぱり分からない俺は完全にパニック状態。しかも頭は割れるように痛いし、もう泣きそう。
でも待って、よくよく周りを見れば知ってるぞ? ここライザックの部屋だ。あれ? でも何で俺ここに居るの? あまつさえ何でライザックと一緒に寝てるんだ?
「どうした、カズ?」
「あ……えっと……離してくれますか?」
「何故?」
何故って、こっちが何故だよ? 何でこんな事になってんだよ? 確か俺はハインツと一緒に出掛けたんだ、それで出先でライザックに遭遇して喧嘩して逃げ出して迷子になって……
「あれ? バートラム様は?」
そうだよ! 俺はミレニアさんの婚約者、熊獣人のバートラム様に攫われて変な店に連れてかれたんだ、でもそこで出された虹色の飲み物を飲んだ後の記憶がさっぱりなのだけど……
「カズはもしかして獣人の方が好みなのか?」
「好み?」
「ミレニアの次はズーランドの大臣の息子とは恐れ入る」
「えっと……仰ってる意味がさっぱり分からないのですけど……」
「私は怒っているのだよ! いや、はっきり意思表示をしてこなかった私も悪い! だけれどこっちにも色々と事情があって全てをカズに話す事はできなかった! だからと言って浮気だなんて……」
恨めし気なライザックの瞳、浮気? もうホント意味が分かりません。なんで俺が責められてんだ? 俺をセフレのように扱おうとしていたのはお前の方だろう? お前は俺を使用人として雇って、都合の良い性欲処理の相手にしようとしてたんじゃないのかよ? 俺の純粋な好意を足蹴にするような事したのはそっちだろ!
「もう離せ!」
「駄目だ! この腕を離せばカズは逃げるだろう! 私達にはもっと話し合いが必要だ!」
「話し合いってなんだよっ! 俺はお前なんか大嫌いだ!」
俺の叫びに、俺の腰に回された腕が緩んだ。けれど、その直後またしても力強くぎゅっと抱き込まれて息が詰まる。
「何故だ、カズ。私にはカズの気持ちが分からない、昨晩酔ったお前は私に笑ってくれたじゃないか、好きだと言ってくれたのは酔っ払いの戯言だったのか!?」
そんなまるで記憶にない事を問い詰められても困る。昨晩って俺どうなったんだっけ? そもそもどうやってこの屋敷に戻って来たのかすら記憶にないというのに……
「カズはそんなに私の事が嫌いなのか?」
急にライザックの声のトーンが落ちた。俺を拘束する力は緩むどころかきつくなる一方で息が苦しい俺は腰に回る彼の腕に爪を立てる。
「離せって! 苦しいんだよっ、この馬鹿力!」
「私だって戸惑っている、嫌われているのならば手離してやりたい気持ちもある、だが離れがたい……こんな感情は初めてだ……カズは何故それ程までに私を嫌う? 私が一体何をした? ワームの治療と称して散々カズを抱いたからか? それとも騙すようにしてカズをこの屋敷に連れ帰ったのが気に入らないか?」
「騙す……って、お前やっぱり俺を性欲処理の道具にしようとしてたんだな!」
「それは違う! 断じてそれは違う!」
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