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馬車の中

「なぁ、ライザック、あれっていわゆるお城じゃないの?」  今、俺はライザックと共に馬車に揺られているのだが、窓の外、目の前に聳え立つのは巨大な建築物。途中延々森が続くものだから、道間違ってるんじゃないか? なんて心配してたら、何のことはないそれは巨大な前庭でその奥に聳え立つのはまごう事なき城だった。 「ああ、元々別邸だったものだが城と言われればそうかもしれない」  ライザックはさらりと言ってのける。そうだよなぁ、だってオーランドルフ家って元王族だもん、本家だったら城に住んでたって不思議じゃないよね。分家だって言うライザックの屋敷だって十分に大きいんだから当然予想は出来てたはずなのに予想外の大きさにドン引きなんだけど。  うちの屋敷が見てくれだけの貧乏屋敷だって分かってたから、実は本家もそんなものかもなんて、頭のどこかで思ってたのかもな。考え改めないと…… 「それよりカズ、具合はどうだ? 無理をしてはいけないよ」  そう言ってライザックは彼の膝の上に頭を乗せて寝ている俺の髪を優しく撫でた。俺の体調はあまり芳しくない。ライザックは何だかんだと俺を甘やかしてくれて、馬車の中「横になっておいで」と俺を寝かせておいてくれたお陰でどうにか吐かずに済んだのだが、本家の屋敷遠い! 馬車に揺られて3時間はさすがにちょっとグロッキーだ。  ちなみにライザックの母親のハロルド様とミレニアさんは一足先に出立していて、もう城に着いてるんじゃないかな? ハロルド様にこんな醜態見せられないし、別行動で良かった。 「間もなく本家に着くが、その前にカズには言っておかないといけない事が幾つかあるのだが……」 「ん? なに?」  俺の髪を撫でながら、少し神妙な表情のライザック。俺はそんな彼の顔を見上げて彼の頬に手を伸ばすと、彼はくすぐったそうに笑みを零した。けれど、すぐに神妙な表情に戻って言葉を続ける。 「まずは本家の当主、私にとっては叔父にあたるのだけど、この人がなかなか癖の強い人でね」 「癖が強い?」 「色好みで気に入った者には手当たり次第に手を出す悪癖がある。ただ幸いな事にカズは叔父の趣味からは外れているからお声はかからないとは思うのだが、念のため注意だけはしておいて欲しい」  なんと! 当主は女癖が悪いのか! いや待て、この世界に女はいない、という事は男癖? 綺麗な男を侍らせた酒池肉林なのか? 俺の頭の中にはバートラム様に連れ込まれたあのお店のお姉さん(?)達の様子が思い浮かぶ。まぁ、お金持ちっぽいしそういう人もいるんだな。 「叔父の本妻はとても良い人なのに、何故一人で我慢できないのか私には理解ができない」  溜息を零すライザック。うん、ライザックがそういう考えの人ならば俺は浮気の心配はしなくて良さそうだ。 「次に私のいとこなのだが……」 「叔父さんの子? もしかして叔父さんに似てるとか?」 「いや、そこは父親を反面教師に育っているので母親に似てとても真面目な性格をしているのだが、実は私とロゼッタは……あ、ロゼッタというのはいとこの名なのだが、昔はとても仲が良くて、これは本当に子供の頃の口約束だけの話なのだが、大きくなったら結婚しようなんてそんな他愛もない約束をするようなそんな仲だったのだ」  え……ちょっと待って、それって…… 「カズ! 誤解はしないで欲しいのだ! これはあくまで幼い頃の口約束なだけで、なんの効力もない子供特有の戯れだったという事だけは声を大にして言っておきたいのだ。恐らくロゼッタもそんな約束は覚えていないと思うのだが、念のため言っておくだけだから! そもそも私は今のロゼッタは好みではないのだ、私にとってカズが理想の妻である事に揺るぎはない!」  そんな力説されても困るなぁ、それに好みじゃないってその言い方、少しばかりロゼッタさんに失礼じゃない? 挨拶だけはつつがなく出来ればいいなと思っていたけど、ちょっと不安になってきたぞ。  色好みの当主に仲の良かった幼馴染か……城への到着はもう間もなく、何事もなく帰れるといいのだけど。

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