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第一戦②

 ライザックの花嫁の座を賭けた戦い。相手が逞しくがちむちな男性だったので戦いと言えば格闘技と頭から疑ってもいなかった俺は現在針に糸を通す所で躓いている。だって針穴って滅茶苦茶小さいだろ! 「不器用だとは思っていましたが、あなた想像以上ですね……」  ミレニアさんはそう言って溜息を零す。呆れないで、ごめん! 今の俺に頼れるのはミレニアさんだけなんだ、見捨てないで! 「繕い物くらい自分でやった事ないんですか?」 「こういうのは大体いつも母さんがやってくれたから……」 「裁縫なんて生活の基本中の基本でしょうに」  いやいやだけどそれって女の仕事……とそこまで考えてハタと気付く、だってこの世界男しかいなのに男とか女とかある訳ないじゃん! 子供を産むのか産ませるのか、それすら本人の意思に委ねられてるこの世界でそんな性差のようなモノがある訳ない。誰もが父にもなれるし母にもなれる、だったらそんな基本的な生活の技術は誰しもが身に付けていて然るべきなのか……カルチャーショック過ぎて言葉が出ない。  少し離れた所で獣人であるバートラム様ですら大きな背中を丸めて何かを作ってる……どうしよう俺、めっちゃダメ人間じゃん…… 「とにかく針に糸を通して、四隅を縫いなさい。そこから先はあなた次第ですよ」  針に糸を通して四隅を縫う……簡単に言ってくれるけど、どうやって縫えばいいんだ? とりあえず真っすぐ縫えばいいのか? とミレニアさんを盗み見れば何だか不思議な針運びで綺麗に端が縫われていく。  見よう見まねで何とかやってみるけれど、どうにも幅も揃わないし真っすぐ縫えてる気もしない。これ本当に大丈夫なのか?  一時間ほど縫ったり解いたりしながらどうにか四隅を縫い終わると、ミレニアさんは既に次の段階に進んでいた。俺が四苦八苦して作っているのは掌サイズの四角形、これはたぶんコースターだな。ミレニアさんが作っているのは俺の物よりだいぶ大きいサイズで、アレだ飯の時に下に敷くやつ……えっとランチョンマット? って言うんだったか?  ミレニアさんはその布端にレースを縫い付け終わっていて、その作業を見逃した俺はどうしていいのか分からない。そんな俺の戸惑いに気付いたのか、ミレニアさんは首を振って色の付いた糸を手に取り針に通すと布の端に図形を縫い付けていく。  それこそこれは刺繍だな! 俺はどんな図形を描けばいい? 時間は刻々と過ぎていく、迷っている暇などない。そういえば小学校の時、家庭科で作ったエプロンの端にも縫わされたな、確かあの時縫ったのは……俺は黄色の糸を手に取ってまた四苦八苦しながら針に糸を通す。勢い余って何度も指に針を指したりして、俺の指は傷だらけ、だけどやれる事は最後までやってみない事には男がすたるもんな! 

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