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第一戦③

 あっという間の2時間が経過し、終了の合図と共に俺は息を吐いた。掌の中には小さなコースター、はっきり言って不格好でお世辞にも上手に出来たとは言えないのだけれど、それでもなんとか完成した。  シンプルな布地を裏表縫い合わせて小さな図案を刺繍しただけの本当に簡単な物だ、ここにいる誰の作品よりも下手くそなんだろうな……と思ったのだけど、意外や意外、下には下がいるもので俺の作品はまだコースターだと分かるだけマシな代物になっていた。これも全部ミレニアさんのお陰だな、ありがとう! 「さすがロゼッタ素晴らしい出来栄えだな」  作品をその場に並べての品評会、ロゼッタさんが作ったのはそこそこ大きなタペストリーだった。当主はやはり実子であるロゼッタさんの作品を手放しで褒めたおす。というか、実際ロゼッタさんの作品はプロ顔負けの出来栄えで、華やかな薔薇の刺繍が施されたそのタペストリーは売り物だと言われても頷いてしまう程素晴らしい作品だった。  周りを見回し俺より下手くそな奴は勿論いる、だけど俺は優勝しなければいけない立場で、下と比べたって意味ない訳で……この戦い完全に俺の完敗だ。  ロゼッタさんがこちらを見やりふっと微笑む、そりゃあね余裕の笑みだって出るだろうよ、相手がこれじゃあ勝負にもならないもんな。 「カズ、あの黄色いウサギは何なんだ?」  バートラム様が寄って来て、俺のコースターを見やり首を傾げる。ちなみにバートラム様が作ったのは自分サイズの鍋掴みで針遣いは荒いのだが実用性が高いと高評価だ。 「えっと、ピ〇チュウです」 「ピ〇チュウ……?」 「本当はリ〇ードンとかギャ〇ドスとか格好いいのが良かったんですけど、さすがにそこまで複雑なの作れる気がしなくて」  俺の言葉にバートラム様が不審気に首を傾げる。まぁ、だよな。この世界にポ〇モンなんて存在してない事くらい分かってる。だけど小学生の時、俺がエプロンに縫い付けたのが何を隠そうこのピ〇チュウで、一度やってるから出来るかな? って思ったんだよ!  黄色の縁取りに赤くて丸い頬、そしてくりくりの丸い瞳、分かりやすくていいだろう!? 「なんだかよく分からないが、そういうキャラクターなのだな?」 「です!」 「他人が見て何か分らないもの作ってどうするんですか、品定めされる事も分かっているというのにあなたという人は……」  横で小さくミレニアさんに溜息を吐かれた。だって俺にはそこまでの絵心が無いんだから仕方なくないか? 事前に教えてくれてたら俺だってもう少しマシな物作ったよ! 「ところであなた、体調の方は大丈夫なんですか?」  呆れたような表情を見せながらもミレニアさんに言われて、俺はまた腹を撫でる。不思議と今日はそこまで体調悪くないんだよな。夢の中で触手に包まれ、守られていると感じていた。そんな事ある訳ないと分かっているけど、何かに守られてでもいるかのように今日の俺は絶好調だ。 「大事な命です、無理をするんじゃありませんよ」  そっけなく放たれた言葉、アレ? もしかしてミレニアさんずっと俺の心配してくれてたの? 今回の戦いに参戦すると聞いて俺は勝手に落ち込んだりもしていたのに、何だかミレニアさんがとても優しくて嬉しくなった。 「うん、気を付ける!」 「返事は『うん』ではなく、『はい』ですよ! 全く先が思いやられます……」  やはりミレニアさんは大きな溜息、だけど俺はにやけるのを止められなかった。

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