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第二戦③

 何だかんだと喋ってばかりでは制限時間はあっという間に過ぎてしまう。  現在ロゼッタさんは大きなフライパンを揺すって飯を炒めている。ってか、力業……こんな時も彼の筋肉は力を発揮しているようで俺には絶対できない技だな、と感心してしまう。だけど、最初から諦めていたら勝てるものも勝てないから、俺だって出来る事は頑張らなきゃな。 料理もさほど得意ではない俺だけど、実はこっちに来てからどうしても食べたくなって何度かチャレンジした料理がある。  俺は下味を付けた鶏肉をフライパンに放り込み、こっちに来てから覚えた調味料で味付けをしていく。本当は醤油が欲しいんだ、でも似たようなのはあっても日本の醤油はついぞお目にかかれない。本気で欲しくなったら自分で作るしかないんだろうな……醤油の作り方なんて分からないけど。  辺りに香ばしい匂いが漂ってきて腹が減る、ぐるると鳴った腹に『もう少し待ってろよ』と心の中で呟いて俺はまた腹を撫でる。  辺りにはあちこちから色んな匂いがしてきて少し気持ち悪くなってきた。早く腹に収めるもの収めて休憩したいな。 「君、やはりどこか体調が良くないんじゃないのかい? 少し顔色が悪いよ?」 「んっと……たぶん食べれば収まるかと」 「もしかして朝食を食べていないのかい? 三度の食事は健康の礎だよ」 「はは、ちゃんと食べる事は食べてたんですけどねぇ」  そんな事を言いながら俺はフライパンから取り出した鶏肉を少し齧る。うん、まぁ割といい感じに出来たんじゃない?  レタスを千切って少しだけ表面を焼いたパンに挟み、照り焼きチキンと少しのチーズを乗せて照り焼きバーガーの出来上がり!  「君のそれは一体何? サンドウィッチ?」 「まぁ、似たようなものですね。照り焼きチキンバーガーです」  この世界にジャンクフードはない。普通のハンバーガーはハンバーグを挟むだけだから比較的簡単だったのだけど、照り焼きチキンって日本独自の物だったんだな、食べたかったら自分で作るしかなくて、どうにか試行錯誤して出来上がったのがこの一品。使った醤油が日本の物と違うから、やはり少し味が違うのだけど、まぁ食べられない事はないはずだ。  こういうジャンクフードって時々無性に食べたくなるんだよな…… 一方でロゼッタさんが皿に盛ったのは良い匂いのするパエリアだ。あっちもあっちで美味そうだな。 「少し食べる?」 「良いんですか?」 「ふふ、いいよ。その代わり私にも君のソレ食べさせてくれる?」 「それは勿論」  なんだかやっぱりロゼッタさんっていい人だ。出会い方が違ったらものすごく仲良くなれた気がするのに、人生上手くいかないものだな。いや、でももういっそこんな感じに仲良く暮らせるなら俺は妾でもいいんじゃないか? 俺って元々オーランドルフって家に相応しい人間じゃないんだし、だったらそんな未来もなくはないのではないかと俺の頭にはそんな考えが過る。 「凄いね、これとても美味しい! 今度作り方教えてよ」 「いいですよ。ロゼッタさんのパエリアも美味しいですね」  その時、俺達が仲良くお互いの作った料理を味見し合っているそんな光景を苦虫を噛み潰したような表情で見守っている人間が一人いたのだけど俺達はそれにはまるで気付かず、制限時間終了の合図は鳴り響いた。

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