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閑話:熊さんの昔話①

 初めて自分の婚約者を紹介された時、その貧弱そうな体躯でこいつは大丈夫なのか? とそう思った。まだ年端もいかない年齢だったが、同い年だと聞いていたミレニアの身体は俺より一回りも小さかったし、毛皮を纏っていないその手足は細くまるで枝木のようで俺はとても驚いた。  熊獣人のサラブレッドとして生まれた俺の周りには大きな体躯の獣人で固められており、そんな貧弱そうな獣人を見た事がなかった俺はこいつは遊び相手にもならないのではないかと思ったのだが、ピンと立った耳ともふっとした大きな尻尾は俺には無いものだったので俺はそんな婚約者に興味津々でその顔を覗き込んだ。 「紹介しよう、うちの跡取りのバートラムだ」 「バートラム……さま?」  父親の足元に隠れるようにしてこちらを見ていたミレニアが俺の顔を見上げる。ミレニアは半獣人だと聞いている、すなわちこの獣人国では出来損ないの獣人だ。だから余計に小さく貧弱なのだろう。 「変な顔」  俺の周りにはそれまで『半獣人』も『人』もいなかった。だから低い鼻も毛のない顔も俺には奇妙にしか見えなくて、不躾にも開口一番そんな事を言ったらミレニアは一瞬泣きそうな表情を見せた後、泣き出さずにきっ! とこちらを睨み付けた。そして「そっちこそ、図体ばっかり大きい癖に礼儀がなってないんじゃないですか!」と返され俺は言葉も出ない。  大人顔負けの言い草に俺が目を白黒させて父親を見上げると、父は少し苦笑しながら「この子はとても優秀なのだよ。失礼な事を言うものじゃない」とそう言った。  何がどう優秀なのか知らないけれど、こんな触ったら折れそうな手足の持ち主が自分に敵うはずがないという確信があった俺はぶすっとむすくれる。こんな感じに二人の第一印象はお互い最悪で、それでも親同士は長く付き合えば気心も知れるだろうと俺達の婚約を決めてしまった。  月日は流れ同じ学校に通うようになった俺達は特別仲良くなる事もなかった。俺は周りとわいわい大騒ぎしているのが好きだったが、ミレニアは孤独を好むたちなのかいつでも教室の端で1人本を読んでいる事が多かったからだ。  ミレニアの母親は隣国オーランドの『人間』であると聞いたのはその頃だ。ここズーランドでは獣人と人間の婚姻はよほどの事がない限り認められていない。そもそも種族が違えば交われないとズーランドでは信じられていたし、実際そうなのだと俺も思っていた。だが、隣国オーランドでは異種族の婚姻も認められており、それを受けてミレニアの母親はオーランドから嫁いできたのだと聞いた。  言ってしまえば政略結婚、ミレニアの父親はここズーランドで長く爵位を守り続ける貴族の出で隣国オーランドとも親交が深い人物だった。隣国オーランドと我が国ズーランドは友好国だがそこまで仲が良い訳ではない、なのでこうやって時々人質のように位の高い者達で婚姻をする。ミレニアの母親はオーランドでも一番権力を持っているオーランドルフ家の出身で、その結婚で二国の友好はますます固く結ばれたのだと聞いている。  まぁ、そんな話しは俺の知った事ではないけどな。

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